1国有財産現在額の推移に見る課題~なぜ国有財産は減少したのか~予算委員会調査室吉田博光1.はじめに国は行政サービスの提供に必要な土地、建物や船舶、航空機などを含め、様々な財産を保有している1。「国の財務書類(平成15年度)」によると、現金・預金や貸付金などを含めた資産総額は一般会計と特別会計の合計で695.9兆円に上る(詳細は参考資料部分参照)。他方、財政投融資を中心とする貸付金(289.9兆円)などが含まれない狭義の国有財産は、15年度末現在で102.2兆円である(国有財産台帳価格の合計額)。長い歴史を持つ狭義の国有財産については2、毎年国会に提出される「国有財産増減及び現在額総計算書」や「財政法第28条による予算参考書類」で公表されている3。長期的な推移を見ると、国有財産の総額は長い間増加を続けてきたが、足元では平成15年度で8兆7,024億円減り、16年度(見込み)では更に6兆3,407億円減るという2年連続の減少となっている。特に15年度については、現行国有財産法が施行されて以降初めての減少である。国有財産は、土地や建物の売り払いのほか、動産の廃棄や庁舎の取壊しなどによって減少することがあるが、新たな支出によって増加するものもあり、その差し引きとして算出される国有財産現在額が減少することは異例である。本稿では、国有財産現在額の推移を概観するとともに、その減少に見られる1国が保有する財産については、土地、建物などに現金・預金や貸付金などを含めた「広義の国有財産」と国有財産法で規定されるものに限定した「狭義の国有財産」の2種類の区分がある。さらに、後者は、国の行政の用に供するため所有する行政財産と、それ以外の普通財産に分類される。普通財産は原則として特定の行政目的に直接供されることのないものであるが、条約に基づいて米軍に提供するキャンプ地や飛行場などのように自由に処分することができないものも含まれている。なお、道路や河川などについては、国有財産台帳等に関する国有財産法の規定の適用が除外されている(国有財産法第38条、同法施行令第22条の2)。2狭義の国有財産は、昭和23年の現行国有財産法施行以前からの流れを汲む。3平成12年10月以降、財務省は「国の貸借対照表(試案)」(16年発表分まで)や「国の財務書類」において国の資産総額を発表している。これらには、財政投融資による貸付金などが含まれるため、「国有財産増減及び現在額総計算書」などで発表される国有財産現在額より対象範囲が広く、負債との関係も明らかであるなど、より広範囲な分析を行うことができる。他方、国の貸借対照表は公表時期が遅く、見込額の公表がないほか(「財政法第28条による予算参考書類」では当該年度末見込額が公表されている)、中長期の遡及もできないなど利用上の制約があることから、本稿では、狭義の国有財産現在額を中心に考察を加える。2問題点を明らかにすることで、我が国財政が抱える課題について、国有財産の観点から検証する。2.国有財産現在額の特徴2-1.国有財産の内訳国有財産の減少について検証するに当たり、国有財産の内訳を見ておこう4。「財政法第28条による予算参考書類」によって国有財産の内訳を見ると、最も大きな割合を占めているものが「政府出資等」であり、15年度実績で43兆円(構成比42.2%)、17年度末には51兆円(同51.5%)を超える見込みとなっている(図表1)。「政府出資等」は、株式、社債、地方債等の有価証券及び出資による権利のことであるが、その大部分は国が特別の法律に基づいて特定の法人に対して出資等を行ったことにより取得した権利である。このほか、租税物納等によって保有するに至ったものも含まれているが、これはきわめて少額にとどまっている(15年度末の実績で522億円、17年度見込みで394億円)。なお、15年度末の出資現在額を会計別に見ると、一般会計が26.2兆円、特別会計が16.9兆円となっている。「政府出資等」に次いで大きな割合を占めるものが土地である。17年度末の見込みで、877億平方メートル(8万7,713平方キロメートル)であり、日本の国土面積の約23%、北海道の面積を上回り、九州の約2倍に相当する。ただし、その金額は24兆円であることから、1平方メートル当たりの平均単価は274円に過ぎない。これは、国有地の大半が森林等の安価なものであることが主因となっている。15年度末のベースで見ると、国有林野事業特別会計の企業用財産が95.8%を占めており、その単価は1平方メートル当たり4円にも満たない。このほか、船舶や航空機も17年度にそれぞれ2.2兆円、2.8兆円計上されている。これらの平均単価については、船舶では10億円、航空機は15億円となっているが、警備艦や潜水艦の建造費、戦闘機の購入単価などは更に巨額である。4国有財産に関して国会に提出される資料のうち、「国有財産増減及び現在額総計算書」は国有財産法第34条に基づいて国会に報告されるものであり、「財政法第28条による予算参考書類」は財政法第28条第1項第6号において定められた資料である。国有財産法第34条第1項:内閣は、会計検査院の検査を経た国有財産増減及び現在額総計算書を、翌年度開会の国会の常会に報告することを常例とする。同条第2項:前項の国有財産増減及び現在額総計算書には、会計検査院の検査報告の外、国有財産の増減及び現在額に関する説明書を添附する。財政法第28条:国会に提出する予算には、参考のために左の書類を添附しなければならない。同条第6号:国有財産の前前年度末における現在高並びに前年度末及び当該年度末における現在高の見込に関する調書3価格(千円)107,019,282463,8706,687,692,6997,363,193,72386,7905,507,1162,225,058,7292,826,444,0765,279,90051,781,274,29723,610,906100,469,745,499数量6,442,723189,0511,117189,351320455,4578682,3051,8441,085,083370価格(千円)109,658,760464,5616,643,048,5677,345,545,11186,7905,510,1982,113,448,0932,624,960,1855,286,17247,212,049,48223,610,90695,880,852,071数量6,664,614189,2451,117192,735325465,0568712,3131,8671,085,207370価格(千円)119,109,407481,9436,673,847,1568,875,641,72386,7906,553,4351,946,030,5922,375,153,6446,857,85843,094,107,02628,654,185102,221,523,853数量7,582,087200,9021,208202,754326450,8882,4143,9481,9211,084,602325価格(千円)119,378,341337,4296,647,064,4338,997,899,19092,6976,448,1961,767,224,8852,134,745,1887,013,51348,133,566,92639,504,880110,923,905,379数量7,311,782201,2591,218200,086334442,4382,5854,1371,9291,080,624252数 量単 位平方メートル本立方メートル束平方メートル平方メートル隻トン隻トン隻隻機平方メートル件件樹木竹計雑船計4,901,5431,208,94945,188,6142,021,7174,901,5431,208,949206,745,5991,565,069,9111,735,444,9831,901,156,2802,012,806,01227,168,2249,618,552,0817,907,735,4155,627,329,0285,508,463,26091,294,61260,939,98959,209,74239,191,54427,929,619195,706,777204,032,173206,781,61387,712,561,71224,047,432,170974,260,9906,527,348,661994,053,6426,554,255,805988,993,9916,532,925,2471,000,661,0316,580,209,55089,068,833,64231,311,387,74087,730,392,65524,284,278,788不動産の信託の受益権合 計89,105,142,94333,576,048,29843,209,897101,622,55644,979,0662,193,283航空機地上権等特許権等政府出資等機械器具船舶汽船艦船建物建面積延べ面積工作物図表1 国有財産現在高の内訳(出所)「財政法第28条による予算参考書類」(平成16年度及び平成17年度)平成17年度末見込現在高平成16年度末見込現在高平成15年度末現在高平成14年度末現在高区 分土地立木竹立木42-2.初めて減少に転じた国有財産国有財産の総額について昭和40年度以降の推移を見ると、平成14年度まで一貫して増加し、この間の平均増加率は8.7%となっている(図表2)。政府は毎年投資を行い、ストックとなった国有財産は長期的に残高として計上される。加えて、バブル期までは地価の上昇が続いたことから、政府が保有する土地の総額も増加に寄与した。5年ごとの平均増加率を見ると、特に、バブル期における台帳価格改定の際には平均増加率が高水準となった。現在、政府は歳出削減に努めているが、平成15年度においても年間5千億円程度の現金出資を行っている。この金額のみをもって、国有財産の売却に伴う減少の多くを帳消しにできる規模に達しており、国有財産総額で見た増加圧力は依然として強いものがある。平成15年度と16年度は、このような背景の中で総額の減少を招いており、特殊要因によって資産を失ったものと想定されるのである。つまり、何らかの理由で国有財産が毀損した可能性もあり、こうした事態を注視していく必要があろう。図表2国有財産現在額の推移(注)平成15年度末までは実績、平成16年度末及び17年度末は見込み。(出所)「財政法第28条による予算参考書類」(各年度)より作成020406080100120404244464850525456586062元357911131517(年度末)(兆円)-505101520(%)国有財産現在額(左目盛り)5年ごとの平均増加率(右目盛り)バブル期の価格改定を含むもの平成14年度までの平均増加率5では、15年度にどのような国有財産が減少したのか、前出図表1に沿って具体的に見てみたい。土地は、2兆2,647億円の減少となっている(これに16年度の減少分7兆271億円を合わせると9兆2,918億円となり、2年間の累計では最大の減少項目である)。建物については1兆7,108億円の減少、工作物は1,223億円の減少、不動産の信託の受益権は109億円の減少などとなったが、15年度に最も減少した政府出資等では、5兆395億円の減少である。これは、15年度の総減少額8兆7,024億円の57.9%に上る。2-3.国有財産増減の要因国有財産の主な内訳について、前年度末に対する増減の推移を見ると、周期的に急増を繰り返してきた土地の動きが特徴的である(図表3)。これは5年に1回実施される台帳価格の改定によって引き起こされるものである。地価が右肩上がりで上昇してきたバブル期までは、会計処理の要因によって国有財産現在額が大きく積み