组合课税一考察

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組合課税についての一考察  組合課税についての一考察  日本版UPREITの実現可能性を踏まえて  稲葉  陵(立命館大学大学院経済学研究科博士課程前期課程)目  次はじめに1.組合課税の研究意義 1−1 わが国におけるREITの動向と損益繰延べの要望 1−2 各国における原資産のREITへの拠出段階の課税2.わが国の組合課税とその問題点 2−1 組合資産についてのキャピタル・ゲインの認識 2−2 現行制度の考察 2−3 現行制度の問題点3.アメリカパートナーシップ税制の取扱い 3−1 パートナーシップ税制の概要と2つのアプローチ 3−2 出資、分配時の損益不認識の導入経緯とその取扱い4.わが国の組合における出資、分配時の取扱いの検討 4−1 損益繰延べの根拠 4−2 出資・分配時の取扱いの検討おわりにはじめに 近年、REIT市場は大きく成長し、世界全体のREITの時価総額は、Ernst & Youngの報告書によると2006年6,080億ドル、2007年7,640億ドルと増加した。わが国でもREITは2001年9月に導入され、その時価総額は2000億円から6兆円超となるまでに急成長を遂げている。REIT市場拡大の要因の一つには、税制上の措置がある。最近、イギリス、ドイツでREITが導入されたが、それらの国では、REITへ現物資産を拠出する段階又はREIT転換時に、課税の繰延べや軽減措置が設けられている。わが国においては、REIT側での優遇措置があるものの、資産の拠出者側についての課税上の特例措置は講じられていない。 一方、アメリカではREITとパートナーシップを用いて、UPREITというスキームにより原資産の出資時に不動産原所有者の課税を回避している。このスキームは、アメリカにおいて1990年代前半に停滞していたREIT市場を再び活性化させた。しかしながら、わが国でUPREITのスキームを組成するには、組合への資産出資時の課税が重要なポイントとなる。 わが国の組合課税は、航空機リース等の事例のように、人為的に損失を作り出すことによって所得を圧縮させる租税回避スキームの影響を受け、平成17年度税制改正において、組合員の損失配賦を制限する規制が設けられた。しかしながら、組合への資産出資時の譲渡損益については明らかにされておらず、解釈が2つに分かれている。1つは、出資資産の出資者以外の持分について出資者から他の組合員に譲渡されたと考える「一部譲渡説」であり、もう1つは、出資者から組合自体に出資資産全部が譲渡されたと考える「全部譲渡説」である。このように組合課税が不明確であることは、納税者にとって法的安定性を欠くことから望ましいものではない。 そこで本稿では、わが国におけるUPREITの実現可能性を視野に入れ組合課税についての一考察  つつ、組合課税における資産の出資・分配時の譲渡損益の課税のあり方について検討する。 第1章では、REITへの損益繰延べの要望や経緯を整理し、各国におけるREITへの原資産を拠出する段階又はREIT転換時について課税の取扱いを概観することで、わが国の課税上の問題を探る。第2章では、わが国の組合税制における譲渡損益の取扱いについての問題点を指摘する。第3章では、アメリカのパートナーシップ税制における、出資・分配時の損益不認識の取扱いについて、その導入経緯や理論的根拠から考察する。第4章では、先行研究やアメリカの議論を参考に、組合課税における出資・分配時の課税のあり方について議論を行う。1.組合課税の研究意義1−1 わが国におけるREITの動向と損益繰延べの要望 わが国の不動産投資信託いわゆるREIT(Real Estate Investment Trust)は、2000年の投資信託及び投資法人に関する法律(以下、投信法という)の改正によって導入された。これにより、投資法人の運用対象が有価証券、不動産その他政令で定める資産にまで拡大され、不動産投資信託の設立が可能となった(投信法第2条第1項)。翌年9月に、2銘柄、時価総額2000億円で実施されたREITは、5年で6兆円超となり急成長を遂げたといえる。 一方Ernst & Youngの報告書によれば、世界全体のREITの時価総額は2007年6月において、前年の6,080億ドルから7,640億ドルまで増加している1)。このようなREIT市場拡大の要因の1つには、税制上の措置がある。2007年にはイギリス、ドイツにおいてREITが導入されたが、これらの国は、REITへ現物資産を拠出する段階やREIT転換時における課税の繰延べ又は軽減措置を講じている。 わが国においても、REIT等への原資産の拠出段階における損益繰延べに対する要望が行われてきた2)。不動産証券化協会は1998年以降、証券化スキームとして多用される匿名組合について「匿名組合への現物出資時における譲渡益課税の繰延べ」を提案している。また、2001年からは新たに「不動産譲渡人が投資法人へ不動産を譲渡し、投資口を取得した場合の譲渡益課税の繰延措置の創設」について、そして2002年には「不動産証券化ビークルへ不動産を拠出した場合の譲渡益課税繰延措置の創設」について提案している3)。これらの要望はいずれも実現に至っていない。その理由のひとつとして、当時はデフレ状況下にあり、J−REITに拠出される物件のほとんどが譲渡益を見込めない損切り物件であるために、ニーズが少ないとされていたことが挙げられる4)。 現在の状況は当時と比べて大きく変わっている。国土交通省土地・水資源局によると、三大都市圏及び地方ブロック中心都市における都心の上昇傾向が周辺地域に広がり、その他の地方圏でも地方中心都市を始めとして上昇傾向にあるなど、地価の持ち直しの兆しが浸透し始めたとしている5)。さらに、2006年3月から2007年9月にかけての市街地価格指数には、三大都市圏で上昇幅の拡大が見られ、地方別では関東・中部・近畿地方で上昇している6)。このような状況の下、不動産証券化協会は損益繰延べについて、2002年以来6年ぶりに要望を出している。具体的には、「地域活性化ファンド等に対して土地等を現物出資した場合の譲渡所得の課税の繰延べ及び土地等を譲渡した場合の譲渡所得の課税の特例」の創設であり、低・未利用不動産の有効活用を通じた地域活性化に資する取り組みを支援するための優遇措置を設けることである7)。1−2 各国における原資産のREITへの拠出段階の課税 REIT導入国の中には、REITへ原資産を拠出する段階やREIT転換時における含み益の課税について優遇措置を持つ国がある。組合課税についての一考察   2007年にREITが導入されたイギリスでは、不動産事業法人からREITへの転換が認められる。法人税法上、法人の保有資産を時価でREITに売却し、REITに転換した段階で売却資産をすぐに買戻したとみなされる(Finance Act 2006 chapter25 s.111(2),(3))。ゆえに、未実現のキャピタル・ゲインあるいはロスについては課税されない(s.111(7))。その代替として、エントリーチャージが名目的な所得について課されることになる(2%)。このような規定の背景には、法人の場合、通常の譲渡益は法人税に服すべきであるのに、将来の譲渡収益がREIT認定を通じて、より低率の課税所得に転換されてしまう結果が生じうること、税収の早期確保という要求を満たす必要があったこと等が挙げられる8)。また、フランスでは、REITと同義のSIICが2003年に導入された。SIICになろうとする不動産事業法人は、その適用を受ける段階で、保有不動産等の未実現のネットの含み益に対して16.5%で課税される(Exit Tax)。これは、フランスの法人税の半額の税負担であり、優遇措置として機能しているようである9)。ベルギーも同様にして税負担を軽減している10)。2007年にREITを導入したドイツでは、REITへの不動産の現物出資又は法人からREITへ組織変更に伴う資産の譲渡益は、当初5年間に限り、フランスのSIICと同様、1/2課税が適用されている11)。アメリカにおいても、既存の法人はREITを選択することで、転換が可能である。その際、REITになる前に有していた利益剰余金(E&P)をREITになった事業年度末までに分配しない場合は課税の対象となる(IRC857条(a)(3)(B))。不動産に含み益がある場合には、10年以内に法人税を支払う税法上の選択が認められている(Notice88-19)。ただし、10年以内に売却した場合は課税される。 このように、諸外国ではREIT税制として、原資産の拠出段階の含み益に対する優遇措置を採用している。しかしながら、アメリカではREIT税制によらずUPREITというスキームによっても、原資産の拠出者が出資時点で課税の繰り延べを行うことができる。これは、REIT自身が不動産を所有するのではなく、パートナーシップにこれを所有させ、REITがそのパートナーシップ持分を有する形式をとるものであり、UPREIT(umbrella partnership REIT)と呼ばれている(参照)。 通常アメリカでは、法人への出資時、1人又は複数の者によって現物出資が行われ、その後、当該法人がその1人又は複数の者により支配が行われたと認められる場合は、損益を認識しないこととされる(IRC351条(a))12)。アメリカのREIT(以下、US-REITという)は課税上法人として扱われるのであるが、REITに直接現物出資を行うと、支配要件に関係なくその時点で損益が認識されることになる。これは、「不動産」を所有する「投資会社」に該当するUS-REITがIRC351条に規定する課税繰延べの対象外とされているからである(IRC351条(e)(1)(ⅳ))。一方、パートナーシップへ不動産を拠出した場合、原資産の拠出者は、パートナーシップへの現物出資時において損益が認識されないこととされている(IRC721条(a))。 そこで、UPREITの組成をするには、まず、実際に事業を行うオペレーティングパートナーシップが設立され、US-REITは当該パートナーシップのゼネラルパートナーとなる。次に、不動産原所有者はこのパートナーシップに対して不動産を出資して、REIT株式転換権付きのパートナーシップ持分を有する。その後US-REITがIPO(株式公開)を行えば、オプションを保有する不動産原所有者はそれを上場したREIT株に転換することができる。このようにIPOを前提としたスキームをUPREITという。一方、上場後もREITと不動産原所有者が共同事業を行う場合はDOWNREITと呼ばれている13)。なお株式転換権とは、プットオプション権であり、いわゆる買取請求権に類似する権利ではあるが、法律上はOPユニットから現金または株へ転換可能な償還請求権(a right of redemption)を指す14)。 このスキームでは、不動産原所有者がパートナーシップへ不動産を拠出することで、パートナーシップへの現物出資時において損益が認識されな組合課税についての一考察  い(IRC721条(a))。 UPREITが登場する前は、リミテッドパートナーシップが多く用いられていたが、それは非公開市場からの資金調達に限られており、流動性に乏しく、さらに1986年税制改正でPAL-Rule、AT-Risk Ruleが導入されたため損益通算が難しくなったことで、次第にREITが脚光を浴びるようになった15)。また1990年初頭は、不動産の供給過剰から生じた不動産不況により資金調達が困難であったが、譲渡益課税の繰延べ、有効なファイナンスの手段というメリットを持ったUPREITの出現によって、含み益を有する優良資産への投資が活性化した16)。そして、これは1

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