Ⅰ−2 外部資金による研究81[概 要] 外部資金の導入による研究の活性化は歴博が追求している課題のひとつであり,法人化以降は一段とその必要性が高まっている。競争的研究資金である科学研究費補助金については,本年度も外部の専門家による説明会を開催し,申請に努めた結果,継続分を除いて新たに21件の申請をおこない,そのうち10件が採択された。継続分とあわせると,32件になる。 これらの内,前年度に新規発足した学術創成研究「弥生農耕の起源と東アジア−炭素年代測定による高精度編年体系の構築」(研究代表者西本豊弘,2004~2008年度)は,本年度が2年目であり,東アジアという広い視座に立って,日本における水稲農耕の起源を実年代的に問い直し続けている。日本の歴史を総合的,実証的に研究することをその役割とする歴博としては,まさに基盤的研究として推進すべき課題を外部資金を導入することで進めているのである。 また科学研究費補助金以外には,民間からの奨学寄付金4件の導入をはかり,研究の推進に努めた。 研究委員会委員長 永嶋正春[採択課題一覧]2 外部資金による研究種 目研究課題研究代表者新 規基盤研究(B)近世初期工芸にみる国際性−大航海時代の寄港地間における美術交流に関する研究研究部日高 薫基盤研究(C)高松宮家蔵書群の形成とその性格に関する総合的研究研究部吉岡眞之基盤研究(C)漢代北方境界領域における地域動態の研究研究部上野祥史基盤研究(C)AMS炭素14年代測定を利用した東日本縄紋時代前半期の実年代の研究研究部小林謙一基盤研究(C)日本中世生業史の研究−「農業/非農業」の二項対立論を超えて−外来研究員春田直紀若手研究(B)胎土中ジルコンの測定および解析による陶磁器の産地推定研究部小瀬戸恵美若手研究(B)戦前地域社会における独自の「軍神」像の形成と機能に関する研究研究部 一ノ瀬俊也若手研究(B)中国雲南省における少数民族の土地利用と市場経済への適応に関する研究研究部 吉村郊子82種 目研究課題研究代表者新 規若手研究(B)グローバリゼーションによるホロコースト表象の変容に関する博物館人類学的研究外来研究員 寺田匡宏特別研究員奨励費宮内庁書陵部蔵御所本を主対象とした近世禁裏仙洞における歌書の書写史・蔵書史の研究外来研究員 酒井茂幸継 続特定領域研究分析化学的手法による鉄炮技術史の相関研究研究部宇田川武久特定領域研究画像資料自在閲覧方式による近世歴史資料の調査研究支援システムの研究研究部安達文夫特定領域研究中世遺跡の保存と活用に関する基礎的研究研究部広瀬和雄基盤研究(A)現代の宮座の総合的調査研究および宮座情報データベースの構築研究部 上野和男基盤研究(A)前近代の東アジア海域における唐物と南蛮物の交易とその意義研究部 小野正敏基盤研究(B)東アジア地域における青銅器文化の移入と変容および流通に関する多角的比較研究研究部 齋藤 努基盤研究(B)平田国学の再検討─篤胤・銕胤・延胤・盛胤文書の史料学的研究─研究部 樋口雄彦基盤研究(B)近代大和地方のコレクション収集活動から見た「日本文化」形成過程の研究研究部 久留島 浩基盤研究(B)神社資料の多面性に関する総合的研究−古社の伝存資料と神社機能の分析を中心として−研究部 新谷尚紀基盤研究(B)呪術・呪法の系譜と実践に関する総合的調査研究研究部 小池淳一基盤研究(B)海外実践としてのエスノサイエンスと環境利用の持続性─中国における焼畑農耕の現在─研究部 篠原 徹基盤研究(B)海外民俗信仰と創唱宗教の習合に関する比較民俗学的研究─フランス,ブルターニュ地方の聖人信仰の調査分析を中心として─研究部 新谷尚紀基盤研究(C)日本中世債務史の基礎的研究研究部 井原今朝男基盤研究(C)日本歴史における水田環境の存在意義に関する民俗学的研究研究部 安室 知基盤研究(C)高齢化社会における隠居と定年をめぐる民俗学的研究研究部 関沢まゆみ若手研究(B)室町・桃山期小袖型服飾各類にみる衣材・染織技術・服飾観の相関性に関する研究研究部 澤田和人若手研究(B)近現代の商家経営に関する民俗学的研究研究部 青木隆浩若手研究(B)国民国家形成と遺影の成立に関する民俗学的研究研究部 山田慎也Ⅰ−2 外部資金による研究83種 目研究課題研究代表者継 続若手研究(B)日本近世城下町における武家の消費行動および家相続と都市社会研究部 岩淵令治若手研究(B)経塚・墓地・寺社が形成する宗教空間の考古学的研究研究部 村木二郎学術創成研究費弥生農耕の起源と東アジア−炭素年代測定による高精度編年体系の構築−研究部 西本豊弘特別研究員奨励費日本絵画における風景表現の諸機能と社会的役割に関する研究外来研究員 近藤(水野)僚子(1)基盤研究(B) 「近世初期工芸にみる国際性-大航海時代の寄港地間における美術交流に 関する研究」2005~2008年度 (研究代表者 日高 薫)1.目 的本研究は,16世紀後半から17世紀初めにかけて日本を訪れた西洋人との交流によって生み出された工芸品(いわゆる「南蛮工芸」)および同時代の日本において制作された国内向け工芸品を対象とし,これらをヨーロッパ地域のみならず,貿易船の停泊地周辺域(アフリカ・インド・東南アジア・中国南部・琉球・ヌエバエスパーニャなど)で制作された諸美術工芸との関係性の中でとらえようとするものである。さまざまな素材・技法による輸出工芸品や南蛮趣味の国内向け工芸品,もしくは外来影響が想定される新傾向を示す工芸品にみられる技法・モティーフ・表現様式上の交流を明らかにすることに重点をおき,そのほか舶載品の受容の様態や,装飾文様にみられる異文化表象(異人・異国像)についても検討を加える。多岐にわたる問題点のうち,研究期間中(4年間)に達成したい当面の中心課題を以下の通り設定した。①南蛮漆器に関連する国籍不明の漆器群(マカオ製・琉球製などの説があるもの)の調査と位置づけ②南蛮輸出漆器の新出作品および珍しい作品の調査と紹介③南米経由でスペインに至る交易ルートによる交流の解明とその影響④初期洋風画と諸外国(中国・インド・南米など)の洋風画との比較⑤キリスト教関係の工芸品・キリスト教モティーフに関する諸問題と諸外国との比較⑥近世初期の国内向け工芸品への外来影響の諸相と影響度これらの研究により,日本近世初期工芸のインターナショナルな性格を浮き彫りにする。2.経 過 平成17年度は,本研究組織による共同研究の初年度であったため,各専門分野の研究状況や視点を確認し合うことから始まった。工芸の諸分野の研究者が議論し合う機会は意外と少ないからである。 具体的な成果は,ピーボディ・エセックス博物館(アメリカ・セーラム),ボストン美術館,イサベラ・ス84チュアート・ガードナー美術館(アメリカ・ボストン)の所蔵品の調査を行い,日本および他地域の多彩な輸出工芸の様相を概観したことである。 主要訪問先であったピーボディ・エセックス博物館においては,南蛮漆器をはじめとする輸出工芸品のほか,中国の輸出工芸(漆器・象牙細工・家具・陶磁器など),南蛮漆器の様式に影響を与えたと推測されるインド・グジャラート製の螺鈿細工などを調査した。とくに,台座付螺鈿蒔絵書簞笥・キオスク型オラトリオ・衿用容器など近年知られるようになった珍しい南蛮漆器について,これらが当初からの形態か,あるいは後世の手が加わったものかどうかを確認することができたことは有意義であった。 あわせてモースコレクション中の漆器および陶磁器,染織品の調査も行い,所蔵機関の学芸員と意見を交換することができた。3.研究組織(◎は研究代表者) 荒川正明 出光美術館 岩崎均史 たばこと塩の博物館 岡 泰正 神戸市立博物館 丸山伸彦 武蔵大学人文学部 山崎 剛 金沢美術工芸大学美術工芸学部 坂本 満 本館・名誉教授 澤田和人 本館・研究部 ◎日高 薫 本館・研究部(2)基盤研究(C) 「高松宮家蔵書群の形成とその性格に関する総合的研究」 2005~2007年度 (研究代表者 吉岡眞之)1.目 的国立歴史民俗博物館所蔵『高松宮家伝来禁裏本』(以下,高松宮本と略称)は旧有栖川宮家・高松宮家に伝来した古典籍群であり,かつては禁裏本(天皇家の蔵書群)の一角を形成していたものである。その内容は(1)公家から借用し,もしくは献上させた書籍群,(2)近世前期の主として後西・霊元両天皇の宮廷において書写された書籍群(禁裏本),(3)有栖川宮家歴代親王の収集した書籍群,などに大別される。本研究においては高松宮本の個別研究によって識語・印記の収集,書物の装丁,表紙の紋様,筆跡および料紙の検討などを行い,これら3種類の書籍群を識別するとともに,特に(2)に関しては,近世前期の公家日記の関連記事を収集することによって,その形成の過程を解明する。また他の宮家,公家,武家などの文庫と高松宮家蔵書群の関連を追求し,それらの間に形成されていた情報ネットワーク(書籍の貸借,書写,書籍情報の交換など)についても検討を加える。以上を通じて,高松宮家蔵書群の形成過程とその性格を解明することを目的とする。2.経 過 2003年度に開始した本館の共同研究「高松宮家伝来禁裏本の基礎研究」におけるこれまでの蓄積を基礎に,本年度は特に近世前期の公家日記の関連記事を収集・検討するとともに,前田綱紀(金沢藩第五代藩主)が公家諸家から入手した書籍,もしくは公家の蔵書を書写した写本を中心に,綱紀の蔵書を今に伝える前田育徳会尊経閣文庫において調査を行った。Ⅰ−2 外部資金による研究853.成 果 前記の前田綱紀の収集した和漢の書籍は,綱紀独自の分類にしたがって整理・収蔵されていたが,その後いつしかこの分類は解体され,現在ではその全貌を窺うことはできなくなっている。ただしその痕跡は偶然に伝来した「分類目録」の断片の中にわずかに残されている。これをたどることにより,綱紀の情報ネットワークの一端を捉えることが可能である。そのために,現在この「分類目録」に著録されている書籍名と,尊経閣文庫その他に現存する書籍との同定作業を実施中であり,その結果について報告する準備を進めている。4.研究組織(◎は研究代表者) 井原今朝男 本館・研究部 高橋一樹 本館・研究部◎吉岡眞之 本館・研究部 酒井茂幸 本館・外来研究員(研究協力者)(3)基盤研究(C) 「漢代北方境界領域における地域動態の研究」2005~2007年度 (研究代表者 上野祥史)1.目 的現在の中国山西省から内蒙古自治区にかけての地域は,漢代において匈奴などの北方異民族と漢民族の境界領域であった。この地域は抗争の場であったとともに,両世界をつなぐ物資・情報の伝達ルートでもあった。これまで,漢的世界と非漢的世界の接点として,両世界の変容過程を解明する上で注目されてきたが,境界領域に注目した検討は必ずしも十分とはいえないと考えられる。すなわち,この境界領域に存在した地域および地域集団が,中原を中心とする漢の中核的世界とどのような関係にあり,隣接する非漢的世界とどのような関係をもっていたのか,二つの視点から検討する必要があると考えられる。本研究では,地理学的分析,考古学的分析,文献史学的分析を複合させ,歴史地理環境の復原と境界領域社会の諸様相の検討を通じて,非漢的世界―境界領域―漢的中核世界の関係性を再評価しようするものである。そして,境界領域の動態研究から,漢代という時代・社会構造の特質に迫るとともに,漢代という個別事象論を超えて,境界領域がもつ社会的あるいは史的意義の追究へ論を進めたいと考える。2.経 過 本年度は,各視点での問題点の整理と共有化に重点を置き,研究会を3回開催し,中国山西省での現地調査を