消费者行动

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―31―遡りうるが、その研究は個々の消費者の行動および意識の研究から始まった、といえよう。次いで消費者行動研究のもう一つの側面として、消費者の相互作用を挙げることができる。これは消費者行動への社会学的・社会心理学的視角からのアプローチといえようが、社会階層研究やマスコミ研究などをあげることができる。この視角からの研究は個々の消費者よりも、集団としての消費者や消費者相互間の分析を中心課題としている。たとえば、流行の伝播、消費行動への他人の影響や体面などに関する消費者行動の分析が重要性を持ってくる(2)。 特に、ゆたかな社会、大衆消費社会の到来とともに消費者行動に大きな変化が生じてきていることは改めて指摘するまでもあるまい。わが国においても第二次世界大戦後直後の物不足の時代からもの余りの時代になるにつれて、消費者行動の変化が生じてきており、それを解明するにはさまざま角度からのアプローチが必要となろう。また、1980年代以降、ポストモダンの消費者行動分析も重要な分野として注目を集めている(3)。 そこで、本稿では、これまでの消費者行動1.はじめに 近代のマーケティングは商品をいかに市場で販売するかという外部適応の視点にもとづくものである、といえようが、この考え方は物不足の社会からもの余りの社会への変化を背景に、マーケティングの基本的パラダイムがプロダクトアウトからマーケットインへ転換したことでも説明できる。これはコンセプトの変遷で説明できる。需要が供給を上回る時代においては、メーカーは単に商品の生産に専念していればよかった。しかし、その後、供給が需要を上回るような時代、すなわち「ゆたかな社会」の到来とともに、売れるものをつくることが生産の基本となった。この点について、1960年にE.J.マッカーシーは、その著『ベーシックマーケティング』で4Pに基づくマーケティングを明確化し、企業活動の中心に顧客を位置づけた。そのことは顧客(消費者)・市場への適応活動こそが企業のマーケティングの最重要課題となり、したがって消費者行動分析が、その出発点となることを意味している(1)。 消費者行動分析の歴史は20世紀の初頭までキーワード:消費者、消費、文化、制度Keywords:consumer,consumption,culture,institution消費者行動:その歴史と展望ConsumerBehaviorStudy:TheHistoryandtheProspects 内 田   成UCHIDA,Minoru―32―埼玉学園大学紀要(経営学部篇) 第₈号心理学、社会学、社会心理学や文化人類学などの隣接諸科学の考え方を取り入れるべきである、といった考え方の提唱されるようになり、新たな研究段階にはいった。 まず、カトーナが(GeorgeKatona)が心理経済学(あるいは経済心理学)という新しい考え方を提唱した。これは経済学の理論では説明のできない部分を心理学の考え方で補おうとするものである。つまり、市場全体の把握には適している経済学の考え方ではできない部分を、個人の人間行動を研究の出発点とする心理学で補おう、というものである。 また、ほぼ同時代に社会学の考え方を導入することで、同様に、経済学の消費者行動研究理論の不十分さを補おうとする考え方も現れた。経済社会学である。代表的なものとしては、特に社会階層、準拠集団および対人的影響の研究が挙げられる。社会階層は、所属する階層により消費傾向が異なる点を明らかにした。準拠集団の考え方は、自分の所属している集団が、消費行動に影響を与える点を明らかにした。さらら対人影響力はラザースフェルドがマスメディアと個人の対人的影響、なかでもオピニオンリーダーの重要性を解明した。 これらの社会学的研究は、その後、社会階層の研究はグラフィック研究へ、準拠集団の研究は地域ならびに家族の影響の研究へ、また退陣影響の研究はオピニオンリーダーの果たす役割や口コミ研究へと発展していった。しかし、このような心理経済学や経済社会学の考え方は、あくまでも経済学の消費理論では説明できない部分を、心理学や社会学で補足するというものであった。つまり経済心理学は消費者の行動を内面的な要因から説明しようとしたのに対して、経済社会学は個人を研究史を素描し、次いで、消費者購買行動モデルの変遷について、そして最後に、集団としての消費者や消費者相互間の分析という問題に触れ、現代における消費者行動分析の方向性について述べることにした。特に現代における消費および消費者行動については、ヴェブレン(ThorsteinVeblen,1957-1929)やガルブレイス(JohnKennethGalbraith,1908-2006)などの制度主義的な考え方にも言及したい。彼らの考え方は因襲的経済学の消費者行動論とは異なるアプローチ採っているが、そのプラグマティックな視点は現実の消費や消費者行動を分析する上で、現在でも学ぶべき多くのものを持っている、と考えられるからである(4)。例えば、制度(Institution)、通念(ConventionalWisdom)、衒示的消費(ConspicuousConsumption)や依存効果(DependenceEffect)などのキーワードは消費者行動についての有効な分析ツールといえよう(5)。₂.消費者行動研究史(6) 消費者行動研究が開始されるのは1930年代になってからといえるが、その当時は経済学の消費者理論に基づいて行なわれていた。具体的には消費者選好理論である。この考え方は経済人の仮定、完全な情報仮定などを前提とし、効用の極大化をめざすものであるが、この仮定は消費者を同質的に捉え、集団としての消費者の行動の分析をめざすものであった。このような考え方は第二次世界大戦まで続いてゆく。 しかし、第二次世界大戦後、ゆたかな社会(affluentsociety)の到来とともに、これまでの経済学に基づく理論では現実の消費者の行動が分析できなくなってきた。また、人間行動の一部である消費者行動を分析するには、―33―消費者行動れるようになってきた。消費者行動を購買前行動、購買行動および購買後の行動まで一貫して説明するモデルの構築である。消費者行動モデルについては節を改め説明することにしよう。3-1 消費者行動モデル 消費者購買モデルは2つに大別できる。ひとつは刺激-反応モデルで、もうひとつが情報処理型モデルである。前者は外部からの刺激により消費者が反応する、という考え方であり、後者は情報の取捨選択を前提としているものである。それぞれのモデルについて述べてゆくことにする。 刺激-反応モデルは1960年代に当時の心理学界で勢力を持っていた新行動主義理論と認知革命の影響下に作られた。新行動主義の考え方は人間の行動を刺激(stimulus)、それを受ける有機体(organism)=消費者、そして反応(response)で説明しようとしたものである。この考え方を消費者の購買意思決定プロセスに適用したのが、S-O-Rモデルである。特にOの部分の解明に認知革命が役立っている、といえる(7)。 心理学の行動主義の考え方を下敷きにしたのが従来のS-Rモデルであった。このモデルでは消費者(organism)をブラック・ボックスとし、その内面に触れなかった。というのも、SとRの部分は観察することができるが、Oの部分は観察不可能であったからである。しかし、S-O-Rモデルでは、認知革命により人間の内面の研究が進み、この部分の解明が促進されたため、Oの部分を解明しようとした。このモデルの代表的なものがハワード-シェス(Howard-Sheth)モデルである。特徴としては消費者が与えられた刺激取り巻く外部要因から説明しようとしたのである。両者とも経済学中心の研究ではあったが、隣接諸科学の成果を取り入れ消費者行動を分析・解明しようとした研究の先駆といえよう。 その後、1950年代になるとコポーネンのパーソナリティ研究やディヒターらのモチベーションリサーチが出現してきた。これらのものは、いずれもフロイト流の精神分析学を基礎としている、という特徴がある。パーソナリティ研究は精神分析で使われる数量的な尺度と消費との関係を解明しようとした。また、モチベーションリサーチでは深層面接法や投影法などを用いた。しかし、パーソナリティ研究は消費との関係が明確化できなかったために衰微したが、モチベーションリサーチは1960年代の中ごろまで消費者行動研究の流れのひとつとして注目されたが、消費者の深層の解明は結局主観的な側面が強く、科学的ではないという批判などをうけて現在ではほとんど研究されていない、といえる。 さらに1960年代に入ると、パーソナリティ研究とモチベーションリサーチの両者の組み合わせたライフスタイル研究が出現した。考え方としては社会学的であるが、量的な研究と質的な研究を組み合わせることにより、客観性をもっている、という特徴がある。このアプローチはデモグラフィック研究や多変量解析などと組み合わされ、市場細分化のためのツールとして活用され、現在でもなお重要なアプローチであり続けている。 また認知革命により、消費者行動研究も認知心理学的研究が増加するようになっていった。 そして1960年代の中ごろ以降になると、独自の包括的な消費者行動モデル開発が指向さ―34―埼玉学園大学紀要(経営学部篇) 第₈号点に要約できる(9)。① ハワード・シェスモデルでは、刺激を受けた消費者が情報収集を行い、それを処理し、意思決定をし、商品選択をする、というステップが、その前提となっている。ところが実際に消費者は、このモデルで想定されたような行動を採っていないことが明らかにされた。② モデルを作るにあたって消費者の同質性を仮定している点である。もちろん、消費者行動についての一般モデルの構築に際しては、個人間の差異を捨象することは必要である、といえる。これは経済学における経済人モデルと類似性がある、といえる。3-2 情報処理モデル そして、登場してきたのが情報処理モデルである。このモデルは、今日の消費者行動研究の中心的パラダイムを構成している、といえる。理論的基礎として認知心理学や人工知能研究がある。つまり、消費者を情報処理者と看做している点に特徴がある。 刺激-反応モデルとの相違点は二つある。第一に消費者の情報処理能力には限界があるため、消費者はもっている情報処理能力の範囲内で商品選択をすると仮定している点である。第二に人間観について刺激-反応モデルで仮定されていたような刺激に対して反応すによって行動する、という「受動的な人間観」に基づいていることである。この点はS-Rモデルと変わらない(下図-1参照(8)) このモデルでは消費者は商品、広告、口コミなどの刺激を受ける。そうした情報は近く構成体に伝達され、処理される。そして処理された情報は学習構成体に伝達され、そこで意思決定がされる。この場合、知覚構成体は情報処理を、学習構成体はそれらの情報をもとに意思決定する、と考えられている。このようなプロセスを得てなされた意思決定の結果として、購買がなされる。そして購買した商品の満足・不満足の結果はフィードバックされ、ブランドに関する知識が強化・修正される。このモデルは、消費者の内面における反応過程を説明したものといえる。 ところで、このモデルの特徴は、刺激に対する消費者の反応段階を包括モデルの中に示していることである。さらに、このモデルの意義は、それにより消費者行動論が、既存の社会科学理論の寄せ集めではなく、体系的な、独立した理論として構築された点にある。 しかし1970年代中頃、このような刺激-反応モデルが考えているように、消費者が意思決定していない、ということがファーレーの実証研究により明らかにされた。このファーレーの研究は、その後の消費者行動研究に多くの影響を与えたが、そのポイントは次の2図-

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