-26-地域銀行の業務展開と収益構造神奈川大学数阪孝志(要旨)リレバンが取組まれた4年間で地域銀行の業務展開と収益構造には一定の変化があらわれた。融資業務が中心的な位置を占めていることは変わらないものの、業務が多様化し、非金利収入につながる業務のウエイトが高まっている。そのことが、収益構造としては、役務取引等利益比率の急速な高まりとなってあらわれている。しかし、直接融資に結びつかない取組みには、ビジネスマッチングのように評価を受けているものがある一方で、経営改善支援のように本格的な取組みにまで至ったと評価しにくいものもある。地域銀行は、本来の中小企業者向け貸出と昀近伸びている消費者ローンに対するウエイトの濃淡の点だけをみてもそれぞれ戦略に応じた多様な姿をあらわしており、今後恒久的な取組みとして展開されるべき地域密着型金融においても、各々の特性に応じた対応が求められる。はじめに本稿は、2003年3月「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」が発表されて以降の4年間を中心に、地域銀行の業務展開と収益構造にどのような変化が起こり、その特徴をどのようにとらえるべきかについて検討するものである。1.地域銀行の組織上の変化はじめに本稿が対象とする地域銀行の変化を組織の面から概観しておこう。まず、地域銀行とは、業態として地方銀行(全国地方銀行協会加盟行)および第二地銀(第二地方銀行協会加盟行)の両者を合わせたものであり、地域金融機関の中で株式会社組織の銀行を総称するものである。リレーションシップバンキング(以下リレバンと略)において金融庁が対象としているのは株式会社組織の地域銀行である地方銀行・第二地銀の2業態と協同組織金融機関の信用金庫・信用組合の2業態(およびその中央組織)である。そのうち、地方銀行・第二地銀をまとめて地域銀行と呼び、リレバン報告においても一括して取り扱われている。従来の研究においては、地域金融機関の業態別の特徴を明らかにするためにも、地方銀行・第二地銀を区分してきたが、業態を超える再編が進行したことから、その区分の意味合いが変化してきた。リレバンにおいて両業態を集約して扱っているという行政上の措置は、地域銀行をめぐる組織上の変化という背景から考えて合理性を有するといえよう。-27-業態とは、金融機関が業界組織を結成し、行政上の扱いも同一基準で行うものとして、機能してきた。全国地方銀行協会(地銀協)、第二地方銀行協会(第二地銀協)は、それぞれ設立の歴史的経緯が異なる銀行が作った団体であり、両協会に加盟している銀行には重複はなく、その地域において果たす役割等にも一定の格差がみられたことから、計数をもって実態を把握する際には業態という区分は意味を持つものとして機能してきた。地方銀行は、明治期以来の歴史的基盤の上に、「一県一行主義」に基づく銀行合同運動の結果、地域において中心的な地位を占めるに至った銀行と、第二次大戦後の新設銀行から構成されている(例外は西日本シティ銀行)。一方、第二地銀は、無尽会社に端を発する戦後の相互銀行の流れを汲む銀行で、平成元年に普通銀行へ一斉転換したグループ(例外は八千代銀行)であり、両者の間には地盤とする地域において大枠ではその役割、性格に差が認められてきた。しかし2000年前後以降、金融持株会社によるグループ化の動きが大きく進展し、業態の垣根を超える再編が現実化するに至り、グループとしてとらえた金融勢力の実勢と業態としてとらえた銀行単位の動向との間に齟齬が目立ち始めた。持株会社による業態を超えた再編としてりそなホールディングス(HD)の例がある。地方銀行の大阪銀行と第二地銀の近畿銀行が合併し近畿大阪銀行(地方銀行)として新たなスタートをきったのが1999年4月であった。2000年12月には第二地銀の奈良銀行とともに大和銀HDの子会社となり、その後、現在のりそなHDに至るもその構成員であり続けている。なお、奈良銀行はりそな銀行に吸収されている。地方銀行の近畿大阪銀行は、りそなグループの一員として機能しており、単体としての行動をそれだけ取り出して見ることには限界があるといえよう。また、現在、りそなHDに属する埼玉りそな銀行は、埼玉県を地盤とし事実上地域限定で営業する地域金融機関であるが、地銀協、第二地銀協のどちらにも加盟しておらず、全国銀行協会の「全国銀行資本金、店舗数、役職員数等一覧表」では「都市銀行」に分類されている。しかし、金融庁の「免許・登録を受けている業者一覧」では地域銀行の中の「その他」に分類されており、リレバンおよび地域密着型金融の進捗状況報告においては埼玉りそな銀行を地方銀行に含め、地方銀行を全65行と分類している。その他、持株会社設立によるグループ化の進展で、銀行単体ベースでみた計数が必ずしもグループとしての実態を正しく反映しないケースがいくつかみられるようになってきた。ほくほくフィナンシャルグループ(FG)の場合、子会社銀行として北海道銀行と北陸銀行がそれぞれ機能しており、その実態を明らかにする場合、各子会社銀行単体の計数の持つ意味は限定的にならざるを得ないともいえる。山形しあわせ銀行と殖産銀行によるきらやかHDの設立(2005年10月)以後、06年3月-28-期、07年3月期と2期にわたりグループおよび銀行単体決算が出された後、2行がきらやか銀行として合併したのは07年5月である。北海道の第二地銀である北洋銀行と札幌銀行が札幌北洋HDを設立したのは01年4月、それ以後、両銀行は合併せず、銀行単体として機能している(08年10月に合併予定)。地方銀行の紀陽銀行と第二地銀の和歌山銀行による紀陽HDの設立が06年2月、その後06年10月には合併し、銀行単体ベースでは紀陽銀行に統一されている。第二地銀のせとうち銀行と広島総合銀行によるもみじHDでは、両行の合併により銀行単体ベースでは04年5月にもみじ銀行となったが、06年10月には山口FGとの統合により、単体ベースでみて業態として地方銀行と第二地銀の2行を傘下におさめる金融持株会社が誕生することとなった。また、業態の異なる親和銀行と九州銀行による九州親和HDは03年4月に合併し、単一の子会社銀行(地方銀行として親和銀行)を擁する形となったが、07年10月にふくおかFGとの統合によって、グループとしては横浜銀行を超える昀大規模の地域銀行グループとなることが決定されている。なお、ふくおかFGは、業態の異なる福岡銀行、熊本ファミリー銀行を傘下に擁しており、07年10月以降は、あわせて3行の銀行子会社を擁することとなる。札幌北洋HD、きらやかHD、紀陽HDの場合、グループ化といってももともとの銀行営業エリアが北海道、山形県、和歌山県という1道県にとどまっており、地域限定の性格が極めて濃い。それに対し、ほくほくFG、山口FG、ふくおかFGの場合には、県境を超えた広域的なグループ化であり、地域銀行の広域展開戦略の嚆矢として、地域金融機関が地盤とする地域の範囲をどのようにとらえるのかという問題を考える上で新たな動きといえる。なお、地方銀行の関東銀行と第二地銀のつくば銀行の合併による関東つくば銀行の誕生(03年4月)は業態の垣根を超えるとはいうものの茨城県内をベースとする銀行同士の合併であり、持株会社方式を採用しておらず、03年4月以降、銀行単体ベースでも関東つくば銀行に集約されている。それに対し、福岡県をベースとする地方銀行の西日本銀行と第二地銀の福岡シティ銀行が合併したケース(04年10月)では、同様に持株会社形式を採用していないが、西日本シティ銀行は長崎銀行を子会社とし、また経営の悪化した豊和銀行に資本供与をするなど、九州北部におけるもう一方の広域的な再編の核となっている。地域金融機関が地元を意識する場合、従来は本店の所在する都道府県を単位とすることがほとんどだったが、このような持株会社方式によるかあるいは資本関係の形による広域展開がみられるようになってきた中で、地元戦略はどのように立てられるべきなのか、あ-29-らためて問題とされねばならないであろう。なお、泉州銀行は三菱UFJ・FGの連結子会社であり、中京銀行・岐阜銀行は同じく三菱UFJ・FGの持分法適用関連会社、みなと銀行・関西アーバン銀行は三井住友FGの連結子会社となっており、大手メガバンクによる地域銀行の系列化の動きもすでに進んでいる。なお、リテール金融業務に特化したネット型銀行や中小企業金融への特化を標榜する日本振興銀行、新銀行東京など、新たな形態の銀行が誕生しているが、これらの銀行はリレバンの対象外とされており、地域銀行の範疇には入らないので、本稿でも検討の対象としないこととする。従来、地域金融機関の動向を把握する場合、各協会加盟を基本とする業態という区分は有効な側面を有していた。それは、業態としてまとまった計数を協会毎に発表し、業態としての特徴がつかみやすかったという面にもあらわれている。しかし、持株会社形式による場合や合併による場合、資本系列化による場合など、業態の垣根を超えた再編が相当数現実化したことにより、銀行単体ベースの計数を合計した業態という区分が実態と齟齬をきたすケースが多くなった。そこで、本稿では、地方銀行および第二地銀の両者を合計した地域銀行を地域金融機関における銀行組織の総称とする。しかし、計数のベースは銀行単体とし、グループ化している場合でも、地域における銀行活動が単体ベースを基本としている現状を踏まえて、連結ベースに拠っていない。このことから、07年3月期決算における地域銀行は、地銀協加盟64行プラス埼玉りそな銀行の65行、第二地銀46行のあわせて111行となるが、それ以前の決算期については、合併があった場合には合併行の決算数値を単純合算する方法で処理し、計数調整を行った場合と、協会発表の計数をそのまま利用している場合の両方のケースがある。2.地域銀行の決算(1)地域銀行決算の概況地域銀行の決算状況を集計値としてみてみよう。表1は、03年3月期から07年3月期までの決算状況をまとめたものである。地方銀行は地銀協加盟64行ベースの数値で、各年度決算の集計を協会が公表したものであり、合併による合算修正を行っていない。また、第二地銀も第二地銀協加盟行ベースであり、各期毎に行数が異なっている。地域銀行合計は、地方銀行と第二地銀の合計値に埼玉りそな銀行の各期の計数を合算したものである。なお、埼玉りそな銀行は旧あさひ銀行から03年3月に分離したため、03年3月期決算では実質的に03年3月1ヶ月間だけの数値が合算されて-30-いる。業務粗利益および業務純益については、国債等債券関係損益(いわゆる債券5勘定尻)と一般貸倒引当金繰入額を控除したコア・ベースで記載している。また、資金利益、役務取引等利益は国内業務部門および国際業務部門の合計をとっている。臨時損益の中では不良債権処理額のうち個別貸倒引当金繰入額と貸出金償却をとりあげ、それと株式等関係損益の推移が記載されている。表1では03年3月期以降を示しているが、02年3月期には地方銀行・第二地銀ともに経常利益・当期純利益でマイナスの赤字決算、それ以前にも地域銀行の決算状況は00年3月期に地方銀行が大幅な赤字決算となっていた。第二地銀は当期純利益ベースで数年間にわたり赤字決算を続けるなど、芳しいものではなかった。03年3月に発表されたリレバン方針の背景には、このように地域銀行や信用金庫など中小企業金融と地域金融を支えてきた金融機関の体力低下が進行していたことが指摘できる。体力低下の原因は不良債権問題とその処理による収益低下にあったが、地域金融機関における業務の中心をなす融資業務の後退が金融機能の後退をあらわす深刻な問題であった。図1から明らかなように、地域銀行および信用金庫の貸出金伸び率(対前年同月比、月次ベース)の推移をみると、1999年末より急速な落ち込みをみせ、2005年に至る