大阪大学微生物病研究所-17-1-17.微生物病研究所Ⅰ微生物病研究所の研究目的と特徴・17-2Ⅱ分析項目ごとの水準の判断・・・・17-3分析項目Ⅰ研究活動の状況・・・・17-3分析項目Ⅱ研究成果の状況・・・・17-4Ⅲ質の向上度の判断・・・・・・・・17-6大阪大学微生物病研究所-17-2-Ⅰ微生物病研究所の研究目的と特徴1.研究目的微生物病研究所は、微生物病の学理を明らかにすることを目的に、大阪大学で最初の附置研究所として昭和9年に設置された。70年余りにわたって、感染症学、免疫学、腫瘍学などの分野で基礎、応用研究を重ねて来た。具体的な目標は以下の通りである。1)感染症・生体防御という生命現象の表裏を包括的に研究する。2)感染症の制御を目指した新たな学問拠点を形成する。3)研究所に設置された寄附研究部門や財団法人阪大微生物病研究会と連携し基礎研究成果の応用展開をサポート推進する。4)国内問題に限らず熱帯病等、国際社会における問題に対する貢献を目指す。5)研究を効率よく実施するため研究支援組織を強化する。2.特徴研究所は、基礎研究を行う3研究部門(感染機構研究、生体防御研究、環境応答研究)と応用研究を指向する難治感染症対策研究センターに加え、遺伝情報実験センター、感染症国際研究センター、感染症DNAチップ開発センター、日本・タイ感染症共同研究センター、感染動物実験施設、2寄附研究部門で構成されている。平成20年3月31日現在の専任・特任の教員(寄附研究部門を含む。)は87名(教授20、准教授25、助教42)である。[想定する関係者とその期待]1)学界:微生物学、感染症学、免疫学、生化学分子生物学などの学問領域において、卓越した基礎的、応用的研究成果をあげ、これら学界の質の向上と進展に貢献している。2)国際社会や地域:タイ王国に感染症共同研究センターを設置し、同国および東南アジア地域の感染症研究の進展に大きく貢献している。また、北大阪(彩都周辺)地域のバイオメディカルクラスター形成に大きな寄与をしている。3)産業分野:研究所でシーズが開発された種々のワクチンが、財団法人阪大微生物病研究会によって実用化され、国内外で広く使用され、感染症予防に貢献している。大阪大学微生物病研究所分析項目Ⅰ-17-3-Ⅱ分析項目ごとの水準の判断分析項目Ⅰ研究活動の状況(1)観点ごとの分析観点研究活動の実施状況(観点に係る状況)本研究所の設立目的である微生物病の学理を明らかにし、感染症及び免疫学研究の世界的な中心拠点として機能させるため、感染症及び免疫応答に関わる生命現象を解明するとともに感染症・免疫疾患の克服を目指した研究を推進している。そのストラテジーとして免疫学側からは、特に自然免疫系による病原体認識機構、自然免疫系の活性化から獲得免疫系誘導に至る分子機構を、感染症学側からは宿主への感染や病原体が免疫応答を回避し排除されない分子機構の解明を行い、その結果に基づいた感染症・免疫疾患の新たな克服手法の開拓を目指している。個々の研究者の力を束ねてより強力なものにするために、①21世紀COEプログラム「感染症学・免疫学融合プログラム」②感染症対策研究連携事業「感染症国際研究センター」③新興・再興感染症研究拠点形成プログラム「大阪大学感染症国際研究拠点」④新興・再興感染症研究拠点形成プログラムによる「日本・タイ感染症共同研究センター」を設立したほか、本研究所の研究者が中心となり、⑤世界トップレベル研究拠点プログラム「免疫学フロンティア研究センター」の立ち上げを行なった。一方、感染症・免疫学研究の基盤をなす、発生・分化・癌などの基礎生物学担当分野の研究も積極的に推進している。具体的には、細胞間及び細胞内情報伝達機構の解析、オートファジー機構の解析、細胞周期関連分子の機能解析、受精機構の解析等を通して宿主応答機構や自他認識の基本原理を解明することを目指し、基礎生命科学を感染・免疫学の融合領域の創成を意識しながら取り組んでいる。また、国内ワクチン生産30%のシェアを占める財団法人阪大微生物病研究会と連携しながら、本研究所での研究成果を社会へ還元すべく応用展開を進めている。更に文部科学省の関西広域知的クラスター計画にも積極的に参画し、産学連携研究拠点形成を進めている。2004年度に感染症DNAチップ開発センターを設置し、国内外で円滑に共同利用に提供するために運営面を整備した。また、遺伝子操作動物・遺伝情報の感染症研究への利用を促進するため、学内共同教育研究施設であった遺伝情報実験センターを本研究所に統合し、遺伝子改変動物作製に関する作製支援体制を強化した。本支援組織は学外との共同研究という形で実質的に全国の大学に対する支援体制として機能している。外部資金の調達状況や研究業績については科学研究費補助金(資料B1-2006,2007データ分析集:No.24科研費申請・内定の状況)、競争的外部資金(資料B1-2006,2007データ分析集:No.26競争的外部資金内定状況)、共同研究(資料1)、受託研究(資料2)、および、寄附金・寄附講座(資料3)などに示されるように極めて活発である。大阪大学微生物病研究所分析項目Ⅰ.Ⅱ<資料1共同研究><資料2受託研究>※競争的資金の委託分含む03060901201502004200520062007年度(百万円)0510152025件受入金額総額受入件数0.0200.0400.0600.0800.01,000.01,200.02004200520062007年度百万円051015202530件受入金額受入件数(出典:大阪大学全学基礎データ)<資料3寄附金受入状況>受入件数受入金額(千円)設置数受入金額(千円)200445137,221255,500200548196,001125,600200659236,631371,3002007711,215,657265,000寄附講座・研究部門(内数)年度寄附金(出典:大阪大学全学基礎データ)(2)分析項目の水準及びその判断理由(水準)期待される水準を大きく上回る(判断理由)上記のように、本研究所は複数の大規模プロジェクトを平行して進めており、研究活動の独創性と先進性は極めて高い。また、関連学会の進展(17-3①、⑤)、地域社会の発展(知的クラスターへの参画)、国際社会の感染症研究の進展(17-3②、③、④)、および本研究所で開発された種々のシーズの産業分野への貢献度も優れていると判断される。また、遺伝情報実験センターにおける共同研究実施状況も(別添資料)に示すように極めて活発である。分析項目Ⅱ研究成果の状況(1)観点ごとの分析観点研究成果の状況(大学共同利用機関、大学の全国共同利用機能を有する附置研究所及び研究施設においては、共同利用・共同研究の成果の状況を含めること。)(観点に係る状況)免疫学の分野においては、自然免疫系による病原体認識機構の解明に大きな前進が見られた。これまで謎につつまれていたインターフェロンの産生誘導機構の全容がほぼ解明され、感染症や免疫研究分野に大きなインパクトを与えた(業績番号1018-1028)。特殊な糖鎖構造を認識する免疫レセプターを同定し、免疫応答や感染症を制御する新たな分子機序を提示した(業績番号1031)。腸管粘膜に細菌鞭毛を認識する細胞が存在しており、クローン病などの炎症性腸疾患との関連を示唆した(業績番号1026)。神経突起の伸張方向を決定する因子とその受容体が心臓形成、骨の恒常性及び免疫細胞の分化制御等の広範な活性をもつことを明らかにした(業績番号1007-1009,1017,1028-1030)。発作性夜間血色素尿症の異常血液細胞クローンの拡大が、造血幹細胞の良性腫瘍化によって起こることを明-17-4-大阪大学微生物病研究所分析項目Ⅱ-17-5-らかにした(業績番号1032)。感染症の分野では、アフリカトリパノソーマがそのベクターであるツエツエ蠅の消化管で増殖するために宿主の血液細胞の構成成分を利用することを見いだした(業績番号1011)。レジオネラ菌の蛋白質の分泌シグナル領域が病原性発現に重要であることを同定した(業績番号1012)。エイズウイルスの感染性と細胞傷害性に関与する領域を明らかにした(業績番号1015,1016)。C型肝炎ウイルスの複製や病原性発現に関わる宿主側の因子を同定した(業績番号1014,1015)。基礎生物学の分野では、ジフテリア毒素由来の蛋白質が抗腫瘍活性を持つことを明らかにし、卵巣癌患者を対象とした第1相試験を開始した(業績番号1010)。がん原遺伝子産物Srcとその抑制因子による制御系が上皮組織の構築や恒常性の維持に機能することを明らかにした(業績番号1004,1005)。細胞内物質の細胞外への放出に関与する蛋白質の働きを可視化できる系を開発し、膜融合を促進する因子を明らかにした(業績番号1003)。精子と卵子との融合に必須な因子を同定し、避妊ワクチンの可能性を提示した(業績番号1006)。遺伝的な欠陥をもつ胎盤に、レンチウイルスベクターで組織特異的に遺伝子を導入することにより、新生児が得られることを明らかにした(業績番号1001)。減数分裂期の相同染色体の対合と組換えに特徴的な染色体構造の維持と組換え促進に必須な因子を同定した(業績番号1002)。共同利用組織である遺伝情報実験センターではノックアウトマウス作製支援を行いこれまでに180ラインにのぼる作製実績をもつ我が国でもトップレベルの支援体制を構築した。(2)分析項目の水準及びその判断理由(水準)期待される水準を大きく上回る(判断理由)本研究所からインパクトファクターの高い一流学術誌に多くの研究業績が掲載されており、世界で最も注目された研究者ランキングで、2006年度と2007年度に世界第一位となった研究者を擁することは特筆に価する。また、財団法人阪大微生物病研究会と連携して、卵巣癌治療やマラリアワクチンの臨床試験も順調に進行している。以上のように、本研究所における研究成果は傑出したものであり、関連学会、地域社会、国際社会、ならびに、産業分野への貢献度も優れていると判断される。大阪大学微生物病研究所-17-6-Ⅲ質の向上度の判断中期計画大阪大学の中期計画に掲げられた「感染症・免疫学融合型の卓越した教育・研究拠点形成を推進する」計画及び微生物病研究所の「感染症学や免疫学を研究対象としている学外の組織との交流を進める」計画等に従い、以下のように質的な向上を図る取り組みを行った。①事例121世紀COEプログラム「感染症学・免疫学融合プログラム」の立ち上げ(分析項目Ⅱ)2003年度に「21世紀COEプログラム」として「感染症学・免疫学融合プログラム」が採択され病原体と宿主免疫系の包括的な研究の推進が可能となった。現在までNature(11報)、Nature関連誌(29報)、Science(4報)、Cell(5報)、Cell姉妹紙(12報)などに論文が掲載され、中間評価でも「卓越した研究成果」との評価を得ている。②事例2特別教育研究経費による感染症対策研究連携事業「感染症国際研究センター」の立ち上げ(分析項目Ⅱ)肝炎(B型及びC型)、AIDS、やインフルエンザ、病原性大腸菌、マラリアなど新興・再興感染症に対する研究連携体制を整備するため、2004年度に本研究所と東京大学医科学研究所がそれぞれの感染症研究施設を共同利用しながら先端的な医学・生物学研究と人材養成をおこなう「感染症国際研究センター」を設置した。「感染症国際研究センター」では3名の特任教授と2名の特任准教授をラボチーフとして採用し、5研究室を立ち上げた。これらで2名の助教と11名の特任研究員を採用し、感染症分野における活発な研究を展開している。さらに、学生11名の指導も行っており、人材の育成にも積極的に取り組む事ができた。このように、本事業は新興感染症に対する病原体の同定や、新たな治療法の開