honp.1[100%]263就実大学薬学部薬学科分子生物臨床診断学(〒7038516岡山市西川原161)e-mail:torhoshi@shujitsu.ac.jp本総説は,日本薬学会第127年会シンポジウムS41で発表したものを中心に記述したものである.263YAKUGAKUZASSHI128(2)263―268(2008)2008ThePharmaceuticalSocietyofJapan―Reviews―炎症性関節リウマチ滑膜細胞のシグナル伝達森宏樹,中西徹SignalTransductionofIn‰ammatorySynoviocytesinRheumatoidArthritisHirokiMORIandTohruNAKANISHIMolecularBiologyandMolecularDiagnosis,ShujitsuUniversitySchoolofPharmacy,161Nishigawara,OkayamaCity7038516,Japan(ReceivedAugust22,2007)Recentadvancesinpost-genomictechnologyenableustoanalyzegeneexpressionandproteinmodiˆcationcompre-hensivelyintissuesandcells,resultinginnewdevelopmentsintheanalysisofmoleculareventsofdiseases.Wehavebeenstudyingthepathogenicandprogressivemechanismsofdiseasesfromtheaspectofsignallingpathwaysofcells.In‰am-matorycytokinessuchasTNF-alphaandIL-1producedfromactivatedmacrophagesstimulatetheovergrowthofsyn-oviocytesandinduceosteoclastdiŠerentiationinrheumatoidarthritis(RA).Asaconsequence,cartilageandbonedes-tructioninjointsisobservedinRApatients.Recently,thepathogenicmechanismsarebeginningtobediscussedatthemolecularlevel.Forexample,up-regulationofsynoviolin,anER-localizingE3ubiquitinligase,insynoviocytesisin-volvedinRAbecauserheumatoidsynoviocytesproducesynoviolinandoverexpressionofhumansynoviolininmicecausesarthropathy.Sofarlittleisknownaboutligandsinducingarthropathyandtheirreceptorsinthedisease.Wecharacterizedrheumatoidsynoviocytesbyproˆlinggeneexpressionwithgenome-wideDNAchips,andfoundthataclusterantigenisinvolvedintheproteinsup-regulatedinrheumatoidsynoviocytes.Wehavebeenanalyzingtherelation-shipbetweensynoviolinexpressionandtheactivationofclusterantigen.TheclusterantigenanditssignalpathwayscouldbecomeanoveltherapeutictargetforRA.WediscussthepossibilityofdirectinductionofsynoviolinexpressionviaactivationofsignalpathwaysdirectedbytheclusterantigeninRAsynoviocytes.Keywords―rheumatoidarthritis;synoviocyte;synoviolin;DNAchip(DNAmicroarray);clusterantigen1.はじめにゲノム情報を用いたポストゲノム技術の進展により,最近,組織・細胞内の遺伝子発現・タンパク質修飾などが網羅的に解析できるようになり,種々の病態の分子レベルでの解析に新しい展開がもたらされるようになった.さらにこれによって,疾病発症・進行機序を情報伝達系などを通じて議論できるようになった.その代表的な技術がDNAチップ(DNAマイクロアレイ)である.1)われわれは,これまでこのDNAチップを用いた滑膜線維芽細胞の遺伝子発現プロファイリング等より,関節リウマチの増殖滑膜線維芽細胞の特徴付けを行ってきた.関節リウマチではTNFaやIL-1などの炎症性サイトカインの産生亢進により,滑膜線維芽細胞の活性化・異常増殖あるいは破骨細胞の分化誘導が起こる.またその結果,骨・関節破壊及び増殖滑膜の軟骨・骨への進入という主病態を生じる.こうした過程について分子レベルでの解析が進展しているが,まだ未解明の部分も多い.例えば,増殖滑膜では,小胞体に局在するE3ユビキチンリガーゼであるシノビオリンの発現亢進が関節リウマチの発症に関係すると考えられているが,その病態における誘導性リガンドあるいはその受容体に関しての詳細は不明である.われわれは,DNAマイクロアレイを用いた滑膜細胞遺伝子発現プロファイリングにより見い出したCCNファミリー遺伝子群,特にWnt-1誘導分泌タンパク質(Wnt-1-inducedsecretedprotein:WISP)1-3が関節リウマチ滑膜細胞で組織化学的に多く発現していることを見い出した.さらにスプライシング変異体の解析等も行った結果,これらの遺伝子あるいは遺伝子産物が,関節リウマチの発症honp.2[100%]264Table1.HighlyExpressedGenesinRASynovialCellsRA-IA01gTransformingproteinrhoAA07KCDKinhibitor1A07l40SribosomalproteinS19A09hfte-140SribosomalproteinS3AA10hIGFRIIA14EPDGFRaA14lRCLgrowth-relactedc-mycresponsivegeneC02icalpainC12dems-1oncogeneD14jRNApolymeraseIIcoactivatorp15E08eGsaE12nglutathioneS-transferasePiF02mMMP1F04mMMP3F05bHSP27F08fFGF7RA-IIA01bCD81A02dannexinVA09hforkhead-relatedtranscriptionfactorFREAC-9C02helastinprecursorC04gannexinIID04gglutamatedehydrogenase1precursorD09iamyloidA4proteinprecursor(proteasenexin-II)E01hGABARb3E05mCTGF-L(WISP-2)E07hosteoprotegerin(OPG)E06knatriureticpeptideprecursorb中西徹就実大学薬学部教授.愛知県生まれ.東京大学理学部卒業.大阪大学細胞工学センター,京都大学ウイルス研究所を経て1992年岡山大学歯学部助手,1998年同助教授,2001年同大学院医歯学総合研究科助教授,2004年より現職.2000年仏国パスツール研究所客員研究員,日本パスツール協会会員.264Vol.128(2008)となんらかのかかわりを持つ可能性が示唆されたので以下に紹介する.また同様にDNAチップ解析によって,関節リウマチ滑膜細胞において,クラスター分化抗原とシノビオリン遺伝子の発現に関連があるという結果を得たので,この点についても,特にシグナル伝達の観点から紹介したいと思う.2.関節リウマチ(RA)滑膜細胞の遺伝子発現プロファイリング2)われわれは,まず変形性関節症(OA)及びRA患者の関節から滑膜細胞を分離して培養後,RNAを抽出し,DNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現を比較した.その結果,RAで発現亢進している遺伝子として,Table1のような遺伝子を抽出した.ここには既にRAのマーカーとして知られている遺伝子も存在するが,この中でわれわれは結合組織成長因子(CTGF)関連遺伝子に着目した.CTGFはCCNファミリー3)に属する成長因子で,349アミノ酸からなる分子量38kDaの分泌タンパク質である.分子内には39個のシステイン残基が存在する特徴的な構造を持っている.このCTGFはもともと抗PDGF抗体との交差性から発見されたタンパク質であるが,筆者(中西)らは,ディファレンシャルディスプレイ(diŠerentialdisplay)法によって軟骨特異的遺伝子としてこのCTGFをクローニングした.4)CTGFは,invitroで軟骨細胞の成長分化を促進する作用を有し,5)血管新生や骨芽細胞の増殖分化をも促進すると思われたが,そのトランスジェニックマウスは,矮小化,骨密度低下の表現型を示し,6)このCTGFのinvivoでの作用が複雑なものであることを示唆した.実際,CTGFは多くの因子と結合してその作用を調節する,いわゆるモジュレーターとして作用することが明らかとなってきており,その作用は病的なものも含めて単純ではない.Figure1には,このCTGFが属するCCNファミリーのメンバーとその共通構造を示した.CCNとは,メンバーのCyr61,CTGF,Novの頭文字を取って命名されたもので,このファミリーにはCyr61,CTGF,Nov及びWISP-13の6つの因子が属している(これらは正式にはCCN1-6の名称で呼ぶことになっている).これらの因子は,インスリン様成長因子結合タンパク質と相同な領域(Fig.1ではIGFBP),フォンウィレブランド因子と相同な領域(Fig.1ではVWC),トロンボスポンジンと相同な領域(Fig.1ではTSP1),そしてシステインノットhonp.3[100%]265Fig.1.SchematicRepresentationoftheCCNFamilyIGFBP:insulin-likegrowthfactorbindingprotein-likedomain,VWC:vonWillbrandfactor-likedomain,TSP1:thrombospondin-likedomain,CT:cysteineknotcontainingfamilyofgrowthregulators-likedomain.Fig.2.QuantitativeRT-PCRAnalysisoftheExpressionofFourCCNGenesinOAandRASynovialCellsTheordinateshowsrelativeexpressionlevelofeachgeneinRAsynovio-cytesrelativetotheexpressionlevelinOAsynoviocytes.Fig.3.SchematicRepresentationofWnt-NotchSignalingHypothesisMediatedbyWI