1有機化合物命名法目次1炭化水素1.1アルカン1.2アルケンとアルキン1.3環状炭化水素1.3.1単環炭化水素1.3.2橋かけ環炭化水素1.3.3スピロ炭化水素1.3.4芳香族炭化水素2ヘテロ環化合物2.1ヘテロ単環化合物2.2ヘテロ環化合物の慣用名2.3ヘテロ環化合物の代置命名法3特性基の命名4置換基の名称4.1アルキル基4.2不飽和炭化水素基と2価の基4.3環状構造をもつ基5命名法の体系5.1置換命名法5.2基官能命名法6化合物別の名称と注意事項6.1ハロゲン化合物6.2アルコールとフェノール6.3エーテル6.4アルデヒド6.5ケトン6.6カルボン酸とその誘導体6.6.1カルボン酸とアシル基6.6.2塩とエステル6.6.3ハロゲン化アシル6.6.4酸無水物6.6.5ラクトンとラクタム6.6.6過酸6.7アミンと関連窒素化合物6.7.1アミン6.7.2アンモニウム化合物6.7.3イミン6.7.4アミド6.8ニトリル26.9硫黄化合物6.9.1二価硫黄化合物6.9.2スルホキシドとスルホン6.9.3硫黄酸6.10ラジカル6.11イオン6.11.1カルボカチオン6.11.2カルボアニオン7特徴的な構造をもった化合物の命名7.1環集合7.2付加命名法7.3減去命名法7.4接合命名法3有機化合物の命名法については,その概要を3.10節に説明したが,基本的な化合物に限定したために,環状化合物に関する規則などまでは言及しなかった.重複する部分もあるが,有機化学を学ぶために必要な規則をここにまとめる.有機化合物の体系的な命名はIUPAC規則に基づいて行われる.現在用いられている規則は”NomenclatureofOrganicChemistry”として1979年にまとめられ,1990,1993年に補足修正されたものである.日本語名については,字訳という規則があるが,基本的にはローマ字読みで,英語の発音とは異なる.その規則もふくめて,その化合物命名法の骨子が小冊子にまとめられ,日本化学会から出版されている[化合物命名法(補訂7版),2000].それに従って命名法を説明する.!#yl45678alkylalkenylalkynyl$,&–alk–an–e&9:;*+enolynalone!-.&oicacid'/012+amine'3012+nitrile!$%&'()*+&%図1.IUPAC名の構造“語幹+語尾”が母体化合物名に相当する.体系的名称は,置換命名法に基づいており,母体化合物の置換誘導体として命名する.その構造は図1(3章,図3.5)に示すようになっており,母体化合物名に接頭語をつけて置換基を示す.まず,母体化合物の命名法から説明する.1炭化水素1.1アルカン枝分れのないalkane(アルカン)は,炭素数にしたがって表1のような名称をもっている.炭素数5以上のアルカンは,ギリシャ語(またはラテン語)の数詞に語尾-aneつけた形になっている.枝分れアルカンは,最も長い直鎖を主鎖として,それを母体アルカンとし,そのアルキ4ル置換体として命名する.すなわち,置換位置番号とアルキル基名を接頭語としてつける.位置番号は,主鎖の末端から数えて,その数値がなるべく小さくなるようにする.同じ置換基が複数ある場合には,di-(ジ),tri-(トリ),tetra-(テトラ)····のように数詞を語頭につける.アルキル基名については後述する.CH3!CH3CH2CH2CHCH3CH3CH3CH3CHCH2CHCH2CH3543211234562-methylpentane2,4-dimethylhexane#$%&'()*+*,#$-.%/&'(012*表1アルカンの名称炭素数名称炭素数名称1methaneメタン11undecaneウンデカン2ethaneエタン12dodecaneドデカン3propaneプロパン13tridecaneトリデカン4butaneブタン14tetradecaneテトラデカン5pentaneペンタン15pentadecaneペンタデカン6hexaneヘキサン20icosaneイコサン7heptaneヘプタン21henicosaneヘンイコサン8octaneオクタン22docosaneドコサン9nonaneノナン30triacontaneトリアコンタン10decaneデカン40tetracontaneテトラコンタン1.2アルケンとアルキン二重結合の存在はalkane(アルカン)の語尾–ane(アン)を–ene(エン)に換えてalkene(アルケン)として示す.2個以上の二重結合があるときには-adiene,-atrieneのようにする.位置番号は語頭につける場合と語尾の直前につける場合がある.1993年IUPAC補足では語尾の直前につけることが推奨されているが,日本語名の表現がわかりにくい場合があるので,本書では語頭につける方式を採用している.以下,必要に応じて角かっこ内に1993年の修正に基づく名称を示す.12341234567!H2CCHCH2CH3CH3CHCHCHCHCH2CH31-butene#$%&'()[but-1-ene#&*%$%+()]2,4-heptadiene#,-.%/0*1+()[hepta-2,4-diene#/0*%,-.%1+()]5三重結合の存在はalkaneの語尾–aneを–yne(イン)に換えてalkyne(アルキン)とする.二重結合と三重結合の両方がある場合には,-enyne(エンイン)となる.位置番号はできるだけ小さくなるようにつけるが,二重結合と三重結合に同じ番号がつくときには二重結合の方に小さい番号をあてる.12345123456!CH3CHCHCCHCH3CHCHCCCH33-penten-1-yne#/%0)1)%2%+),[pent-3-en-1-yne#0)3%/%.)%2%+),]2-hexen-4-yne#$%&'()%*%+),[hex-2-en-4-yne#&'-%$%.)%*%+),]1.3環状炭化水素1.3.1単環炭化水素接頭語としてcyclo-(シクロ)をつける.不飽和結合や置換基が一つしかない場合には,位置番号をつける必要はない.CH3!3CH3421cyclohexanecyclohexenemethylcyclohexane4-methylcyclohexene#$%&'()*+#$%&'(,*+#-./$%&'()*+#01-./$%&'(,*1.3.2橋かけ環炭化水素二環系炭化水素は,全炭素原子数に対応するアルカン名にbicyclo-(ビシクロ)の接頭語をつけて命名し,2個の橋頭炭素を結ぶ三つの橋の炭素数を角かっこに入れて示す.大きい順に並べ,ピリオド(コンマではない)で区切る.位置番号は橋頭の一つから始め,長い橋から順番に番号をつける.121!21726583736354544bicycl0[2.1.0]pentanebicyclo[3.2.1]octanebicyclo[2.2.1]hept-2-ene#$%&'()*+*,-./0/1#$%&'(2*)*+-3&0/1#$%&'()*)*+-4506)67/三環系は,接頭語tricyclo-(トリシクロ)を用いて次のように命名する.2個の橋頭炭素を含めてできるだけ多くの炭素が含まれるように二環系を選び,二環系と同じように書き,位置番号も決める.最後にもう一つの橋の炭素数をつけ加え,その位置を上つき添字番号で示す.62612457tricyclo[3.2.1.02,7]octane836!#$%&'()*)+),*-./0%12541.3.3スピロ炭化水素一つの炭素で二つの環がつながっている化合物をスピロ環化合物という.炭化水素の場合,全炭素数に対応するアルカンの名称の前にspiro-(スピロ)をつけ,スピロ原子をつなぐ橋の炭素数を角かっこに並べて示す.この場合はビシクロ系と違って小さいものから並べる.位置番号もスピロ原子の隣から始め,小さい環の方から先につける.!7681spiro[3.4]octane24#$%&'()*+,-./53二つの同一の環が1個の炭素を共有してスピロ構造をつくっているときには,スピロビシクロアルカンのように命名してもよい.,-spirobicyclopentane!#$%&'$()*)1.3.4芳香族炭化水素ベンゼンをはじめとして慣用名が使われている.二置換ベンゼンの置換位置を示すために,位置番号の代わりにo-(オルト),m-(メタ),p-(パラ)がよく使われる.下におもな置換ベンゼンと縮合多環芳香族炭化水素の名称を示す.CH3(CH3)2CH3CH3CH3CH(CH3)2benzenetoluenexylene(o/m/p-)mesitylenecumene#$#%!012#%!34+#%!54/+#%!65#%71811877a8a722653a634354a4345styrene!./+#%indenenaphthaleneazulene!'#%!()*+#%!,-+#%758918a9a7291088a10a172101112192610a4a351044b4a6543837654anthracenephenanthrenenaphthacene!#$%'!()*#$+#'!*(,'2131211410110a9212111210108597868a10b39310c3a45a486576triphenylene7pyrenechrycene!$.()0+#'!/+#'!-.'インデンの例のように,最高不飽和度をもつ縮合多環炭化水素に飽和炭素が含まれ,異性体が存在するとき,飽和炭素を示す水素の位置を位置番号とイタリックのHで示す.このHを指示水素(indicatedhydrogen)とよぶ.CH28917263CH22H-indene54fluorene3H-fluorene!#$%&'IUPAC規則には35種の基礎成分の名称があげられており,それ以外のものは,例えばさらにベンゼン環が縮合したというように命名する.縮合の位置は,基礎成分の周辺結合を位置番号に従ってa,b,c...の符号で指定する.891!7ab263benzo[a]anthracene#$%&[a]'%()*%51042ヘテロ環化合物2.1ヘテロ単環化合物ヘテロ環化合物の体系的名称は,含まれるヘテロ原子の種類を示す接頭語(表2)と環の大きさを示す語幹(表3)の組合せでつくられる.ただし,接頭語と語幹が直接つながるとき,すなわち母音がつながる場合には接頭語のaを省く.8OOO!HNSSN132oxiraneaziridinethietanethiole3H-azepine(oxa+irane)(aza+iridine)(thia+etane)(thia+ole)(aza+epine)#$%&'()#*+,+()#-67()(ethyleneoxide)#-$./)0123*45((thiophene)表2ヘテロ原子の種類を示す接頭語元素原子価接頭語元素原子価接頭語OIIoxa(オキサ)PIIIphospha(ホスファ)SIIthia(チア)SiIVsila(シラ)SeIIselena(セレナ)GeIVgerma(ゲルマ)TeIItellura(テルラ)SnIVstanna(スタンナ)NIIIaza(アザ)BIIIbora(ボラ)表3ヘテロ環の大きさと不飽和度を示す語幹(1993年の修正による)環員数不飽和a)飽和環員数不飽和a)飽和3ireneb)iranec)7epineepane4eteetanec)8ocineocane5oleolanec)9onineonane6ineaned)10ecineecanea)最多数の非集積二重結合をもつ環.b)Nだけを含む三員環はirineを使ってもよい.c)Nだけを含む環はiridine,etidine,olidine