日本の経営式日本的経営(にほんてきけいえい)とは、日本の経営慣行を指す言葉。特に戦中戦後に形成され、高度経済成長期からバブル崩壊にかけて実践されていた経営慣行を指す。次の3点が日本的経営の特徴とされた。終身雇用年功序列企業別組合また、日本的経営は、西ヨーロッパやアメリカでは近代化の過程において解体した共同体が、企業体において再生産され続けたことによって成りたっていた面も指摘される。なお、これらの経済政策はケインズ主義を実行した内容であるが、これらは池田勇人などの明治30年代生まれ(1897年~1906年生まれ)が実現した内容である。終身雇用(しゅうしんこよう)とは、学校を新規に卒業した者がすぐに企業に就職し、同一企業で定年まで雇用され続けるという、日本の正社員雇用においての慣行である。ジェイムズ・アベグレンによれば、1958年の著書[1]で日本の雇用慣行を「lifetimecommitment」と名付けたが、日本語訳版[2]で「終身の関係」と訳され、これから終身雇用制と呼ばれるようになった、とされている[3][4]。起源[編集]終身雇用制の成立を江戸時代以前のいわゆる丁稚奉公制度に求める意見[5]も存在するが、現在のような契約に基づいた自由な労使関係において長期の雇用慣習が成立したのは明治末期から昭和初期にかけてだとされている[6]。1900年代から1910年代にかけてのブルーカラーの転職率は極めて高く、より良い待遇を求めて職場を転々とすることが当然であった。当時の熟練職工の5年以上の勤続者は1割程度であった[7]。企業側としては、熟練工の短期転職は大変なコストであり、大企業や官営工場が足止め策として定期昇給制度や退職金制度を導入し、年功序列を重視する雇用制度を築いたことに起源を持つ。しかしこの時期の終身雇用制は、あくまで雇用者の善意にもとづく解雇権の留保であり、明文化された制度としてあったわけではないとされる。しかし、日本における終身雇用の慣行は、第二次世界大戦による労働力不足による短期工の賃金の上昇と、敗戦後の占領行政による社会制度の改革により、一端は衰退する[8]。その後第二次世界大戦終戦後、人員整理反対の大争議を経験した日本の大企業は高度経済成長時代には可能な限り指名解雇を避けるようになった。その後50年代から60年代にかけては、神武景気、岩戸景気と呼ばれる好況のまっただなかにあり、多くの企業の関心は労働力不足のほうにあった[9]。そのため、この時期に特に大企業における長期雇用の慣習が一般化した。1970年代に判例として成立した整理解雇4条件など、種々の判例や労働組合の団結により実質的に使用者の解雇権の行使も制限されるようになり、戦前まではあくまで慣行であった終身雇用が制度として人々の間に定着した。終身雇用の現況と変化[編集]1990年代から2000年代にかけて、多くの日本企業は円高や国際競争、平成不況の中で、人件費の圧迫と過剰雇用に直面し、雇用の調整が大きな経営課題となった。これに対して、いったん雇った期間の定めのない従業員を解雇する際には、上述のように、場合によっては解雇した従業員からの解雇権濫用による解雇無効訴訟のリスクを抱えてしまい、相当の覚悟を要する。このような状況下での日本特有の雇用調整プロセスとして、正社員に対する残業の規制、配置転換や出向、早期退職制度やパートタイマー・期間工に対する契約更新中止、新規採用の中止などの方法が取られている[10]。終身雇用の崩壊[編集]少子化、日本経済停滞などにより昨今では日本的経営の三種の神器(終身雇用、企業別組合、年功序列)を維持することは困難になってきている。内閣府経済社会総合研究所の研究グループは年功賃金と終身雇用を企業が維持することが困難になったとする研究結果をまとめた[11]。しかしながら、終身雇用が崩壊したと言えども日本では長期雇用の慣習が残っており、日本の転職率は欧米の半分以下である[12]。なお、「会社の寿命30年」説も健在であり、それにのっとれば会社の寿命より一般的な労働人生の方が長いことになる[13]。終身雇用と呼べるような実態は従業員1000人以上の大企業の男性社員に限られており、その労働人口に占める比率は8.8%にすぎない[14]。最近では大企業の正社員は終身雇用に近い形態(新卒一括採用~定年)、一方派遣労働者や中小企業の正社員は職を何度か変えるのが普通になりつつある。大企業では終身雇用に近い形態なため、雇用の流動性が乏しく、やり直しが困難である。雇用に流動性を与えるために、正社員を解雇しやすくする事が経済学者などにより提案されている。メリット[編集]長期雇用は日本だけの現象ではなく、欧米でも大企業を中心に長期勤続者の比重の高い国や産業はあり、それらの国や産業では「長期勤続を誘導することで、従業員の企業内訓練を高めて熟練技能を形成し、また従業員の企業忠誠心を高く維持することができる」と考えられている。逆にいえば、「従業員がいつ解雇されるかわからない状況では、一企業のために教育訓練を遂げようという意欲は低下する」と考えられている。さらに、企業が費用を投じて従業員の教育訓練を施してしまっている場合、仮に雇用が過剰になったとしても、将来の需要回復で雇用が不足する可能性があるのならば、すでに教育訓練を施している従業員を雇い続けるのが合理的になる場合がある。むしろその方が、将来の教育訓練費用を節約できるからである。このことを、マクロ経済学の景気循環理論では労働保蔵(laborhoarding)といい、日本だけでなく欧米の雇用の時系列データでもよく観察されている。以上の点で、長期雇用には一定の経済合理性があり、統計的にも広く認められる現象といえる。年功序列(ねんこうじょれつ)とは、主に日本の官公庁、企業などにおいて勤続年数、年齢などに応じて役職や賃金を上昇させる人事制度・慣習のことを指す。労働者を定年まで雇用し続ける終身雇用、企業別労働組合と並んで日本型雇用の典型的なシステムである。その他、個人の資質や能力、実績に関わらず年数のみで評価する仕組み一般を年功序列と称することもある。年功序列制度は、加齢とともに労働者の技術や能力が蓄積され、最終的には企業の成績に反映されるとする考え方に基づいている。結果として、経験豊富な年長者が管理職などのポストに就く割合が高くなる。年功序列の賃金体系のもとでは、実働部隊たる若年者層は、管理者である年長者層に比べ賃金が抑えられる傾向にある。若年層のモチベーション維持には、若年者もいずれ年功によって管理職に昇進し賃金が上昇する(若い頃には上げた成果に見合う賃金を受けられなくても、年功を積めば損を取り戻せる)という確証をもてる環境が必要であり、終身雇用制度は年功序列制度を補強する制度となっている。年功序列型賃金[編集]勤続年数など企業内の年功によって賃金が大きく影響される制度。かつては、家族主義的な考え方や、家族の成長による生活費増加の保障など、社会学的な理由が強調されていた。OJTなどによる企業の従業員への投資が転職によって失われないようにするなどと説明されることもあるが、若年者の働く意欲を殺ぎ生産性が失なわれているとの意見もある。定年制と年功序列型賃金の関係については、年功による能力の向上以上に賃金が上昇する場合には、若いときには賃金は限界生産力を下回り、高齢になると限界生産力を上回ることになる。このため企業は高齢の従業員を定年制を設けて強制的に退職させるという説明がされている。しかし、経営学におけるエージェンシー理論の説明では、若いときには賃金は限界生産力を下回り、高齢になると限界生産力を上回る。これは賃金の観点において強制的な社内預金をすることになる。そのため、労働者はその社内預金を回収するまでは、結果的に長期在職を強いられることになる。