1.まえがき日本伸銅協会では、伸銅業の経営実態を財務係数により的確に把握するため、各年一度協会会員各社から所定の調査様式による、貸借対照表・損益計算書・その他財務諸表等の提供を受け、伸銅工業の経営分析を実施している。今回の伸銅工業の経営分析にあたり、平成20年度の決算を終了した25社の財務諸表を採録したが、このうち伸銅以外の事業を兼営し、そのウエイトが大きい会社を除いた別記の18社を対象に分析した。本分析の対象とした18社の平成20年度(平成20年4月~平成21年3月)における伸銅品生産量は、同期間の全国生産量の35.8%に相当する。決算期の変更等により、2社を採録しなかったこともあり、昨年度より約12%割合が低下した。今回の分析にあたっては、平成20年度の決算を終了した各社の財務分析を採録しているので平成20年8月決算の会社と平成21年3月決算の会社とでは、その決算内容に8ケ月のズレが生じることになる。そこで、このズレをいくらかでも緩和する試みとして、採録20社について前半(平成20年4月~平成20年9月)に決算を終了した3社と、後半(平成20年10月~平成21年3月)の決算を終了した15社を別々に集計し、それぞれの貸借対照表・損益計算書・利益処分を作成すると共に、経営諸指標についても分離して算出した。こうした分析の手法については、従来の分析手順を踏襲した。尚、記述の便宜上、前半3社分のものを9月期決算と、後半15社のものを3月期決算と表現した。2.当期業況の概要1)全般動向平成20年度の日本経済は、前年の米国でのサブプライム危機発生以降先行き不透明な状態が続いていたが、9月に発生したリーマンショックに端を発する金融危機を契機とする世界同時不況の影響を大きく受けた。自動車や電機・電子など主要産業が大幅な減産に追い込まれ、本年1~3月期の実質GDPは年率△15.2%減と戦後最大の落ち込みとなった。こうした中で、平成20年度の伸銅品需要も、年度後半から急激な落ち込みを見せ、特に平成20年11月以降は、自動車、電子機器、半導体等の輸出産業を中心として全ての需要業界の大幅減産の影響を大きく受け、伸銅品の総需要は前年度に比べ大きな落ち込みを示した。銅板条は、年度の前半こそ近年の大きな伸びを牽引してきた自動車向け端子コネクター需要が堅調に推移したが、10月以降は過去に類を見ないほどの急激な落ち込みを経験した。自動車産業の海外生産と輸出の急激な落ち込みの直接的な影響を受けた結果である。民生用電子機器の端子コネクター、半導体リードフレームも深刻な需要不振に陥った。結果、前年比△20.5%の大幅な減少となった。銅管は、主力のエアコン向け需要は、家庭用・パッケージエアコン共に前年に続き需要期の年度上期に低迷した。夏場の猛暑の影響で不需要期に入った秋口に一時回復を見せたが、21年年明けからは経済環境悪化の影響から再び減少傾向で推移した。建築管需要も低迷を続け、結果、前年比△14.0%の減少となった。黄銅棒は、主力の水栓金具・バルブ・ガス機器の主要3需要分野が年間を通して伸び悩んだ。また、上期までの需要を支えてきた自動車・電子機器向けも秋口から大きく落ち込んだ。流通在庫分野は、銅価の高騰と急落を経験するなかで在庫圧縮による当用買いの動きが定着した。結果、前年比△17.0%の減少となった。この結果、主要3品種が揃って大幅な落ち込みを示し、平成20年度の伸銅品生産は、806,999トン、前年度比△19.2%の減少となり、ここ数年続いた100万トンレベルからの大幅な減少となった。2)電気銅地金の動向伸銅品の主原料である電気銅の国内価格は次の通りとなっている。平成17年度より大きく上昇を続けた電気銅の価格は、平成18年初めまで上昇を続け、平成18年5月には100万円にまで暴騰し、平成19年7月には102万円にまで達した。その後は平成20年9月までは80万円以上の水準にて推移していた。しかしながら、リーマンショック発生以降急落し、平成20年12月には31万円となり、下落幅は50万円以上となった。3.収益状況18社の平成20年度における伸銅品売上数量は316,487トンで、前年度に比べ△14.8%の減少となった。売上高は、278,737百万円と前年度比△28.1%の大幅減少となった。売上高の減少は、売上数量の減少と、加えて下期の銅価の市況急落の影響を受けたことが重なった為と思われる。以下に対象18社の売上高と売上数量推移を示す。一方、平成20年度における収益状況においては、経常利益についてみると、18社の内5社のみが利益を計上、残りの13社は経常損失を計上し、全社の経常利益は前年度の12,360百万円から△15,822百万円の大幅な経常損失となった。また、当期利益についても、利益を計上した会社は前年度の15社より大幅減少し5社のみとなり、残る13社は損失を計上した。全体の当期利益も、前年度の5,721百万円から△17,403百万円の大幅な当期損失となった。尚、平成20年度に配当を実施した会社は6社で、前年度の12社から半減した。以下に売上高経常利益率と売上高当期利益率を示す。売上高経常利益率は、前年度の3.17%から△5.68%に8.9ポイントマイナス、売上高当期利益率も1.47%から△6.24%に7.71ポイントマイナスとなった。売上高の大幅減少により、経常損失、当期損失となってしまったことによる。4.固定資産と減価償却平成20年度末の有形固定資産は96,515百万円で、前年度末に比べて△0.2%の減少となっている。また無形固定資産は前年度末比10.0%増の1,117百万円、投資等は△1.4%減の26,327百万円で、固定資産合計では、前年度比△0.4%減の123,959百万円となっている。一方、平成20年度の減価償却実施額は、9,851百万円と前年度比30.1%の増加となった。これは、平成20年度税制改正により、機械・装置の法定耐用年数が見直され、非鉄金属製造業用設備の耐用年数もこれまでの12年が7年に短縮されたこと等が影響している。また、新規設備投資額(年間有形固定資産増加額+減価償却実施額)は9,672百万円で、前年度有形固定資産額の10.0%に相当する。5.主要財務比率資産、資本に関する主要比率を前年と比べると、自己資本比率は28.5%(前年度29.5%)固定比率は188.6%(同137.7%),固定資産対長期資本比率は105.3%(同87.1%)、流動比率は94.4%(同111.3%)となっている。平成20年度は、各指標とも業績悪化に連動して悪化を示している。