北欧の参審制度 昨年デンマーク王国に出張して,同国の参審制度を調査してきました。デンマークの参審制度は,日本の裁判員制度と同様に,一般市民(参審員)が刑事事件の審理に参加して職業裁判官と共に裁判をするという制度です。両制度で異なっている点は,①裁判所を構成する裁判官と一般市民の人数が,日本では,原則として裁判官3名と裁判員6名であるのに対し,デンマークでは,裁判官1名と参審員2名であること,②裁判員・参審員の選任方法が,日本では,選挙権者(20歳以上の者)の中から無作為抽出の方法で選ばれた候補者を母体として,事件ごとに選任されるのに対し,デンマークでは,選挙権者(18歳以上の者)の中からあらかじめ候補者が選定されており,候補者には4年間の任期があるので,任期中に何件も事件を担当すること,③対象となる事件が,日本では,殺人等の重大事件であるのに対し,デンマークでは,窃盗等の比較的軽い事件(検察官が4年未満の拘禁刑を求刑する事件)であること(デンマークには陪審制度もあり,重大事件は陪審裁判の対象となる。),④対象事件が,日本では,否認事件に限られず自白事件を含むのに対し,デンマークでは,否認事件に限られることなどです。このような違いはありますが,裁判官と一般市民が一緒に評議をして,被告人が有罪であるか無罪であるかを判断し,有罪である場合には被告人をどのような刑に処するかを決めるという点では,全く同じです。 出張期間中は,デンマークの法曹関係者のご厚意により,参審事件の審理と評議を何件も傍聴することができた上,多くの法曹関係者にインタビューをすることができました。法廷傍聴をして驚いたのは,基本的に,裁判官と参審員は,法廷で直接聞いた証人や被告人の供述のみによって,被告人が有罪であるか無罪でコペンハーゲン地方裁判所コペンハーゲン地方裁判所コペンハーゲン地方裁判所コペンハーゲン地方裁判所コペンハーゲン地方裁判所12ので,裁判員裁判の下で捜査段階の供述調書をどのように取り扱っていくのかも重要な課題になると思われます。 評議を傍聴して印象的だったのは,参審員が堂々と自分の意見を述べていたことです。参審員が積極的に意見を述べるので,裁判官も特に遠慮することなく自分の意見を述べており,全員で議論をしていました。デンマークの裁判官に,充実した評議を実現するために心掛けていることは何かと尋ねたところ,参審員が積極的に自分の意見を言えるような雰囲気作りをすることはもちろんであるが,中でも大切なのは,裁判官が広く人の意見を聞くという姿勢を示すことであり,そのような裁判官の姿勢は参審員によく伝わるものであると強調していました。 今回のデンマーク出張では,同国の法曹関係者の参審裁判に取り組む姿を目の当たりにすることができ,非常に貴重な機会であったと感じています。(東京地方裁判所裁判官 平木正洋)あるかの判断をしているということです。捜査段階で捜査機関が作成した関係者や被告人の供述調書は,原則として証拠にはなりません。このように直接主義・口頭主義が徹底されている背景には,それが参審員にとって分かりやすいからであるという考え方があるのでしょう。デンマークの検察官と弁護士に尋ねたところ,参審員が法廷で証人や被告人の供述を聞いただけで事件の内容や争点を十分理解できるように配慮して証人尋問や被告人質問を行うようにしているとのことで,彼らが行う尋問や質問は,めりはりのきいた非常に簡潔なものでした。これまで日本の刑事裁判では,事件の全容をできる限り詳しく明らかにすることが望ましいと考えられており,非常に細かい点についてまで尋問を行うという傾向があったように思われますが,今後は,核心部分に重点を置いた尋問の仕方を心掛けていく必要があると感じました。また,日本では,デンマークと異なり,捜査段階の供述調書が重要な証拠となる事件が少なくありませんが,供述調書については,その供述者を警察官や検察官が取り調べた際の状況が問題になることが多く,これを明らかにすることは必ずしも容易ではないコペンハーゲン地方裁判所参審裁判用法廷13フレデリクスベア地方裁判所参審裁判用法廷フレデリクスベア地方裁判所参審裁判用法廷