「医療制度改革大綱」を踏まえ、「生活習慣病予防の徹底」を図るため、平成二十年四月から、高齢者の医療の確保に関する法律により、医療保険者に対して、糖尿病等の生活習慣病に関する健康診査及び特定健診の結果により健康の保持に努める必要がある者に対する保健指導の実施を義務づけることとされました。 また、大綱における政策目標は、平成二十七年度には平成二十年と比較して糖尿病等の生活習慣病有病者・予備群を25%減少させることとしており、中長期的な医療費の伸びの適正化を図ることとされています。 政策目標を達成するためには、医療保険者が効果的・効率的な健診・保健指導を実施する必要があることから、標準的な健診・保健指導プログラム、健診、保健指導データの管理方策、健診・保健指導の委託基準等の在り方を整理することが重要であり、医療保険者が特定健診・特定保健指導の結果に関するデータを管理することにより、生涯を通じた健康管理が実施できるようになることが必要であるとされました。平成二十年から健診が変わります。標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)公表されるこぶし 80号4 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の該当者・予備群に対する保健指導を徹底するため、健診・保健指導の仕組みが変わります。平成二十年四月から医療保険者において、四十歳以上の被保険者・被扶養者を対象とする、内臓脂肪型肥満に着目した健診及び保健指導の事業実施が義務づけられることになりました。医療保険者が効果的・効率的な健診・保健指導を実施するために、標準的な健診・保健指導プログラム、健診・保健指導データの管理方策、健診・保健指導の委託基準等の在り方などがまとめられ平成十九年四月に厚生労働省が確定版を公表しました。今回は、この要旨を簡単に説明します。特 集これからどのように変わるのか?内臓脂肪型肥満に着目した生活習慣病予防のための健診・保健指導の基本的な考え方について 糖尿病等の生活習慣病の有病者・予備群の減少という観点から、内臓脂肪症候群の概念を導入した標準的な健診・保健指導プログラムの構築が必要であり、対象者を階層化し、適切な保健指導を実施するための標準的な判定の基準を導入することとしています。 標準的な健診・保健指導プログラムでは、健診結果及び質問項目により、対象者を生活習慣病のリスク要因の数に応じ階層化し、リスク要因が少ない者に対しては、生活習慣の改善に関する動機づけを行なうこととし、リスク要因の多い者に対しては、医師、保健師、管理栄養士等が積極的に介入し、確実に行動変容を促すことをめざします。 本プログラムは、医療保険者が義務として実施する特定健診及び特定保健指導の対象者である四十歳から七十四歳を主たる対象としてとりまとめられたものです。(1)健診・保健指導の重点の変化 老人保健事業では、健診の受診率を上げることに重点がおかれ、健診後の保健指導を実施しているところでも、保健指導は付加的な役割に留まっていたきらいがあり、職域健診でも、健診は行なわれていましたが一部の事業所を除いて十分な保健指導が行なわれていませんでした。 最近、メタボリックシンドロームの診断基準が示され、内蔵脂肪型肥満に着目した保健指導の重要性が明らかになったため、今後の健診・保健指導は〝保健指導〟に重点を置いたものとなります。(2)健診・保健指導の目的 これまでの健診・保健指導は、個別疾患の早期発見、早期治療が目的となっており、そのため、健診後の保健指導は「要精検」や「要治療」となった者に対する受診勧奨を行ない、高血圧、高脂血症、糖尿病、肝臓病等の疾患を中心とした保健指導を行なってきました。 今後の健診・保健指導は、内蔵脂肪型肥満に着目し、その要因となっている生活習慣を改善するための保健指導を行ない、糖尿病等の有病者・予備群を減少させることが目的となります。生活習慣病は、自覚症状がないまま進行するため、健診は個人が生活習慣を振平成20年から健診が変わります。標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)公表されるり返る絶好の機会と位置づけ、行動変容につながる保健指導を行ないます。(1)基本的な考え方 特定健診においては、糖尿病等の生活習慣病、とりわけ内蔵脂肪症候群の該当者を抽出し、また予備群を減少させるため、保健指導を必要とする者を的確に抽出するための検診項目となります。 問診等の質問項目は、①生活習慣病のリスクを評価するためのものであること、②保健指導の階層化と健診結果を通知する際の「情報提供」の内容を決定する際に活用するものです。(2)具体的な健診項目①基本的な健診の項目 〈表1〉参照こぶし 80号5標準的な健診・保健指導プログラムの特徴今後の健診・保健指導健診の内容はどう変わるのか〈表1〉特定健康診査と基本健康診査の健診項目の比較※①新規追加:メタボリックシンドローム判定基準の項目であるため。※②廃止※③新規追加:独立した心血管危険因子の判定指標として有用であるため。※④ヘモグロビンAIC検査を実施した場合には、必ずしも、空腹時血糖を 実施する必要がないため。※⑤廃止:腎尿蛋白検査を実施した場合には、必ずしも尿潜血を実施する必 要がないため。※⑥廃止:腎機能障害の発生リスクは、尿蛋白検査、血糖検査、血圧測定等 により把握可能である。血清クレアチニン検査については、医療 機関において必要に応じて実施。○…必須項目□…医師の判断に基づき選択的に実施する項目■…いづれかの項目の実施でも可 糖尿病等の生活習慣病の予備群に対する保健指導の第一の目的は、生活習慣病に移行させないことです。そのための保健指導では、対象者自身が健診結果を理解して体の変化に気づき、自らの生活習慣を振り返り、改善するための行動目標を設定するとともに、自らが実践できるよう支援し、そのことにより対象者が自分の健康に関するセルフケア(自己管理)ができるようになることを目的としています。 指導者は、対象者に必要な行動変容に関する情報を提示し、自己決定を促すことによって、対象者が健康的な生活を維持できるよう支援します。 生活習慣は個人が長年築いてきたものであるので、改善すべき生活習慣に自ら気づくことが難しく、また、対象者は、行動変容は難しいことであると認識している場合が多いことを念頭に置いて、対象者への支援を行う必要があります。 対象者が行動目標に沿って新たな生活習慣を確立し、維持することは容易ではありません。保健指導実施者は、対象者の新たな行動を継続できるよう、定期的に助言・支援することや同じ課題に取り組むグループへの参加の勧奨など、対象者が現在の状況を客観的に把握できる機会を提供するとともに、実行していることに対しては、励ましや賞賛するなど自己効力感を高めるフォローアップが重要です。行動変容を可能にするためには、このフォローアップが特に重要となります。②詳細な健診の項目 心電図検査、眼底検査、貧血検査のうち、一定の基準の下、医師が必要と判断したものを選択することが可能となります。・心電図検査の一定基準:血糖、脂質、血圧、肥満の四項目の判定・眼底検査の一定基準:血糖、脂質、血圧、肥満の四項目の判定・貧血検査の一定基準:既往歴を有する者又は視診等で貧血が疑われる者③その他の検診項目 四十〜七四歳を対象とする健康診査においては、それぞれの法令の趣旨、目的、制度に基づき①の基本的な検診項目以外の項目を実施します。なかでも、尿酸、クレアチニン、HbA1c等については、必要に応じ実施することが望ましいとされています。 これまで、健診後の保健指導は、健診結果を通知しパンフレットなどを使用して一般的な情報提供をする保健指導や、高血圧、糖尿病等の病態別の保健指導が行われていました。 今後、健診後の保健指導は、内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)に着目した生活習慣の改善に重点を置いた指導を行います。具体的には、健診結果から本人が身体状況を理解し、生活習慣改善の必要性を認識でき、行動目標を自らが設定し実行できるよう、個人の行動変容をめざした保健指導を行うものです。 保健指導は、対象者の考えや行動変容のステージ(準備状態)を考慮し、個別性を重視した保健指導が行われることになります。※行動変容ステージとは、行動変容に対する準備段階のことで、次の五つのステージに分けられます。ステージごとに支援方法を変え、ステージが改善していけるように支援します。無関心期:六カ月以内に行 動変容に向けた 行動を起こす意 思がない時期関心期:六カ月以内に行 動変容に向けた 行動を起こす意 思がある時期準備期:一カ月以内に行 動変容に向けた 行動を起こす意 思がある時期実行期:明確な行動変容 が観察されるが、 その持続がまだ 六カ月未満であ る時期維持期:明確な行動変容 が観察され、そ の期間が六カ月 以上続いている 時期こぶし 80号6特 集特定保健指導とは?保健指導の基本的考え方こぶし 80号7平成20年から健診が変わります。標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)公表されるこぶし 80号8特 集 対象者を正確に把握するために、医療保険者は、四十歳から七十四歳までの全対象者のうち、糖尿病等の生活習慣病の予備群は、「健診結果等による対象者階層化基準」に基づき分類し、各基準に該当する人数を求めます。各保健指導である「情報提供」、「動機づけ支援」、「積極的支援」については、例えば次のような指導目標を設定する必要があります。なお、数値目標は、健診結果の変化、アンケート調査等に基づくものとします。①「情報提供」のみの対象者・健診結果を正常範囲のまま維持し、悪化させない。・「動機づけ支援」対象への移行率を○%以下とする。(この数値は性別・年代別に各医療保険者で設定)②「動機づけ支援」の対象者・健診結果を改善、または悪化させない。・内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)予備軍では腹囲の減少をめざす。・「積極的支援」対象への移行率を△%以下とする。(この数値は性別・年代別に各医療保険者で設定)③「積極的支援」の対象者・健診結果を改善させる。・内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)では腹囲、体重の減量、危険因子の減少をめざす。・保健指導対象者の○割以上の人において、判定の改善をめざす。・「要治療」への移行率を◇%以下とする。 保健指導プログラムは、対象者の保健指導の必要性ごとに「情報提供」、「動機づけ支援」、「積極的支援」に区分されるが、各保健指導プログラムの目標を明確化した上で、サービスを提供する必要があります。 ﹁情報提供﹂とは、対象者が生活習慣病や健診結果から自らの身体状況を認識するとともに、健康な生活習慣の重要性に対する理解と関心を深め、生活習慣を見直すきっかけとなるよう、健診結果の提供にあわせて、個人の生活習慣やその改善に関する基本的な情報を提供することをいいます。 ﹁動機づけ支援﹂とは、対象者が自らの健康状態を自覚し、生活習慣の改善のための自主的な取組を継続的に行うことができるようになることを目的として、医師、保健師又は管理栄養士の面接・指導のもとに行動計画を策定し、医師、保健師、管理栄養士又は栄養指導若しくは運動指導に関する専門的知識及び技術を有すると認められる者が生活習慣の改善のための取組に係る動機づけに関する支援を行うとともに、計画の策定を指導した者が、計画の実績評価(計画策定の日から六カ月以上経過後に行う評価をいう)を行う保健指導をいいます。 ﹁積極的支援﹂とは、対象者が自らの健康状態を自覚し、生活習慣の改善のための自主的な取組を継続的に行うことができるようになることを目的として、医師、保健師又は管理栄養士の面接・指導のもとに行動計画を策定し、医師、保健師、管理栄養士又は栄養指導若しくは運動指導に関