循環型社会形成推進交付金制度の実施状況の把握とその評価井上拓馬環境計画学科環境社会計画専攻において学士(環境科学)の学位授与の資格の一部として滋賀県立大学環境科学部に提出した研究報告書2008年度承認________指導教員循環型社会形成推進交付金制度の実施状況の把握とその評価金谷研究室0512009井上拓馬1.背景・論点日本の廃棄物政策は,平成12年の循環型社会形成推進基本法の制定以来,3Rの推進と循環型社会の形成を目指した政策が進められてきた.そのような政策の一環として,昭和38年より開始された廃棄物処理施設整備費国庫補助金制度(以下補助金制度)は,平成17年より新たに循環型社会形成推進交付金制度(以下交付金制度)として運用が開始された.この新制度について,環境省の意見として関は「自治体等からの不満の声は特に上がっていない.」1)と述べている一方で,既存研究等では宮田が「交付金制度の運用が進み事例が蓄積されてから改めて実施実態の調査を行うべきである.」2)と指摘をしている.宮田の研究が行われた当時は56件の事例しかなかったが,現在は制度の開始から3年が経ち200以上の事例があるので,新たな実態調査が必要であるといえる.2.研究の目的・意義本研究では,これまでの全国の交付金内示状況,交付金の実績値等のデータから交付金制度の実施状況を把握することを目的1とし,交付対象市町村の立場からみた交付金制度の評価を明らかにすることを目的2とする.本研究により,市町村にとってより利用しやすい制度にするための改善点を示すことにつながり,交付金制度の見直しとより効率的な運用が促され,各市町村における3R推進政策の実施に貢献できると考える.3.研究方法研究の目的を次のような方法で達成する.(1)目的1の研究方法交付金の実績値(「交付金制度の全体予算と支出」,「市町村ごとの交付金の使用状況」)と,「交付金事業の内示状況」を調査し,考察を加える.「交付金制度の全体予算と支出」については,財務省のHP上で公開されている一般会計歳入歳出決算を入手し,それを基に交付金制度に関連する予算とその支出をまとめる.「市町村ごとの交付金の使用状況」については,一部の市町村に対してアンケート調査を実施する(表1の項目番号4-1の調査結果を使用).各年度に市町村に交付された金額とそのうちで使用された金額を調査し,交付金の使用率を求める.「交付金事業の内示状況」については,3R推進交付金ネットワークの内示情報および廃棄物関連雑誌に掲載されている交付金内示情報を基に,平成17年度から平成19年度における交付金内示事業の内訳を施設の種類別に整理する.(2)目的2の研究方法アンケート調査を実施し,そこから得られたことを基に目的を達成する.以下にアンケート調査の概要を示す.調査を開始した平成20年4月23日の時点で3R推進交付金ネットワークの地域計画一覧に記載されている全243の地域計画の中から,廃棄物施設等の施設整備に関連する事業(工期が平成19年度までのもの)の内示が行われている102の地域計画の計画地域を調査対象地域とした.アンケート票は対象地域のうち97件に送付し,アンケート回収表1アンケート質問項目(要旨関連部分)項目番号質問内容回答方法有効回答数1地域計画案の作成プロセス1-1コンサル業者への委託の有無選択式741-4地域計画案作成時に困難である点選択式(複数回答可)732地域協議会について2-1地域協議会の構成メンバー記述式682-4協議会中の重要な意見・指摘記述式192-5協議会以外での国・都道府県からの指導の有無選択式713交付申請について3-1年度ごとの内示金額は希望通りか(平成17,18,19年度)選択式43,66,593-2交付申請額は内示金額の何%か(平成17,18,19年度)選択式(一部記述)43,61,524交付金の運用について4-1年度ごとの交付金額・使用額(平成17,18,19年度)記述式40,60,474-4事業間流用の実施の有無選択式705事業実施及び事後評価について5-1事業実施の際の問題点の有無選択式705-3事業実績報告書と交付申請書の記入内容の違い選択式696交付金制度全体についての意見前制度と比して事務が簡素化されていると感じる時期選択式53交付要綱・取扱要領に対する印象選択式54ⅰ数は77件である.アンケート調査の結果について回答の確認及び追加の質問を行うために追加アンケート調査を実施した.追加アンケート回収数は56件である.アンケート調査は平成20年9月1日~9月30日,追加アンケート調査は平成20年11月17日~11月28日に実施した.アンケート調査及び追加アンケート調査の質問内容は表1に示す.4.調査結果及び考察(1)目的1に関する調査結果及び考察1)交付金制度の全体予算と支出表2のように廃棄物処理施設整備費の交付金制度予算では実際に交付されている金額(支出済歳出額の割合)は,平成17年度が歳出予算現額の28.6%,18年度が55.5%,19年度が49.7%となっている.現在まででは,用意された予算が十分に交付されていないといえる.このようになっている理由として,事業計画の変更が多いために翌年度繰越額と不要額が多額になったということが考えられる.表2交付金制度の予算使用状況(廃棄物処理施設整備費)2)市町村ごとの交付金の使用状況表3は市町村における交付金使用率(=交付金利用額/総交付金額×100)である.いずれの年度においても約70%以上の市町村は交付された額を100%使表3市町村における交付金使用率用していることがわかる.使用率が100%でない場合は,翌年度への繰越が行われている.3)交付金事業の内示状況表4より,年度間で比べると,全体の内示件数は約2倍,3倍と増加しているが,事業の種類別の割合には大きな変化は見られない.平成17年度から地域計画承認件数が増加しているので,それにおよそ比例して内示事業の件数が増加したと考えられる.表4交付金内示事業数の内訳平成17年度(n=188)平成18年度(n=375)平成19年度(n=584)マテリアルリサイクル推進施設24.5%24.3%25.9%エネルギー回収推進施設13.8%12.5%13.2%有機性廃棄物リサイクル推進施設4.8%5.1%4.3%最終処分場9.0%8.5%9.1%浄化槽18.6%21.1%20.5%計画支援事業22.9%26.7%26.5%その他6.4%1.9%0.5%(2)目的2に関する調査結果及び考察1)地域計画案の策定プロセスについて表5より,約6割の市町村が地域計画案の作成作業をコンサル業者に委託していることがわかる.また,表6から廃棄物処理量の現状把握・将来予測を困難であると感じている市町村が多いことがわかる.表5地域計画案作成作業をコンサル業者に委託したか委託した49件委託していない25件合計74件表6地域計画案作成時に困難な点(複数回答可)(n=73)廃棄物処理量の現状把握・将来予測65.8%マニュアルがない26.0%事業費見込み23.3%人口推計20.5%市町村合併関連20.5%ごみ有料化の検討6.8%その他23.3%2)地域協議会について表7のように地域協議会の構成メンバーは市町村関係者,都道府県関係者,環境省関係者から成るパターンが多い.平成17年度平成18年度平成19年度歳出予算額(千円)23,000,00043,000,00046,000,000歳出予算現額(千円)23,000,00050,972,28560,746,221支出済歳出額(千円)6,573,24428,292,69030,172,405翌年度繰越額(千円)7,972,28514,746,22118,670,592不要額(千円)8,454,4717,933,37411,903,224支出済歳出額/歳出予算現額28.6%55.5%49.7%平成17年度平成18年度平成19年度有効回答数406047100%28473680~99%21460~79%25440~59%00220~39%1301~19%330交付金使用率別件数0%411全体交付金使用率72.1%86.9%73.9%ⅱ表7地域協議会の構成メンバーパターン1パターン2パターン3パターン4市町村職員・事務組合員○○○○都道府県関係者○○○○環境省関係者○○○○住民代表者等○学識経験者・専門家○その他○○件数49件8件10件1件地域協議会の重要な意見・指摘について表8に示す.重要な意見・指摘は殆どが環境省のものであることがわかる.環境省の意見の内容は「施策の具体的内容,導入・整備する施設の詳細」「廃棄物排出量,処理量の現状及び目標」に関する指摘が主である.表8地域協議会の重要な意見・指摘の数環境省からの意見30件市町村からの意見1件合計31件表9より約4割の市町村が地域協議会以外で環境省,都道府県から指摘を受けていることがわかる.指摘の内容は地域計画の内容における「現状と目標」,「施策の内容」に関するものが多い.表9地域協議会以外での環境省,都道府県からの指摘あり30件なし41件合計71件3)交付申請について各年度の内示金額について表10に示す.平成17年度が83.7%,18年度が87.9%,19年度が88.1%であり,概ね希望通りであるといえる.表10各年度の内示金額は市町村の希望通りか平成17年度(n=43)平成18年度(n=66)平成19年度(n=59)希望通り83.7%87.9%88.1%一部希望通り4.7%4.5%3.4%希望通りではない11.6%7.6%8.5%内示額と交付申請額について表11に示す.いずれの年度においても内示額と交付申請額が「同じ」と回答している市町村の割合は「異なる」と回答している市町村の割合よりも多いことがわかる.表11内示額と交付申請額は同じか平成17年度(n=43)平成18年度(n=61)平成19年度(n=52)同じ81.4%67.2%57.7%異なる18.6%32.8%42.3%4)交付金の運用について交付金の年度間流用を実施した地域について表12に示す.平成17年度は32.5%,18年度は26.7%,19年度は25.5%の市町村が交付金の年度間流用を実施している.そして,年度間流用を実施する理由について表13に示す.「諸事情による事業の遅延」が大半を占めていることがわかる.交付金の年度間流用は,市町村が事業の遅延等の不測の事態に対応するために役立っているといえる.表12交付金の年度間流用を実施した地域平成17年度(n=40)平成18年度(n=60)平成19年度(n=47)地域数13件16件12件有効回答数に対する割合32.5%26.7%25.5%表13年度間流用を実施する理由諸事情による事業の遅延14件事業費が確定していなかった,または変動したため6件環境省の指示5件内示額を満足するため(数字合わせ)2件合計27件5)事業実施及び事後評価について表14より,交付金事業実施の際の連絡・指導等については多くの市町村では特に問題がないことがわかる.表15に事業実績報告書の記入内容について示す.約70%の市町村が事業実績報告書の記入内容について予定通りであるということがわかる.表14交付金事業実施の際の委託事業者・市町村・都道府県間の連絡・指導等について問題あり4件問題なし61件連絡・指導等の必要がなかった5件合計70件表15事業実績報告書の記入内容は交付申請書提出時の予定通りであったか(n=69)予定通り71.0%概ね予定通り(僅かな金額の差異のみ)18.9%予定通りではない10.1%ⅲ6)その他交付金制度全般について表16より,事務の簡素化を実感できると回答した市町村の割合は約60%(表16の上4項目の合計%)であり,実感できる時期では「地域計画を策定してから交付申請を行うまでの段階」「交付申請を行ってから年度ごとの事業実績報告書を作成するまでの段階」「全体的に楽」