民生委員・児童委員制度の改正等に関する国への提言平成21年2月3日東京都福祉保健局―1―民生委員・児童委員制度の改正等に関する国への提言はじめに○民生委員・児童委員(以下、「民生児童委員」という。)は、全国のすべての自治体・地域に配置され、それが組織化されて、一定の統一感をもって活動しており、日本の地域福祉にとって貴重な制度であると認識している。○一方、今後の地域福祉の推進について、区市町村が果たすべき役割がより重要となることは自明である。今後、民生児童委員が地域住民の生活に密着した活動を展開するためには、厚生労働大臣の委嘱は堅持しつつ、区市町村の役割を重視し、都道府県が必要に応じて区市町村を支援できる制度運用に改善することが必要である。○東京都では現在、平成22年12月の民生児童委員の一斉改選に向けて課題を整理し、委嘱手続の効率化や人材確保等に関して必要な対応を図るため、検討会を設けて議論を進めている。この中では、今後の民生児童委員活動の目指すべき方向性や都道府県と区市町村の役割分担等についても広範に議論し、最終的な結論を平成21年の夏頃を目処にまとめる予定である。○現在貴職において、地方分権改革推進委員会の勧告に伴い、「民生児童委員の委嘱手続を簡略化する具体的な方策」について平成20年度末に成案を得るとしていることから、当面の課題として、民生児童委員の委嘱手続に関して国において対応を要望する事項を提言としてまとめた。○今後の委嘱手続が、本提言の内容を踏まえ、東京都をはじめとする各自治体が抱える課題の解決にも資する内容となるよう御配慮願いたい。平成21年2月3日東京都福祉保健局長安藤立美―2―1委嘱手続の効率化(1)区市町村における手続の現状○多くの区市町村では、各地域の町会・自治会や福祉関係者、現任の民生児童委員等の協力を得て民生児童委員の候補者を選出するために、地域の実情に応じて何らかの体制を作っている。○さらに民生委員推薦会(以下「推薦会」という。)を設置して候補者の決定を行うに当たっては、所管部署の職員や推薦会委員が個別に面談を行うなど、地域の実情に見合った工夫をしながら適否の確認をした上で、推薦会において候補者を決定しており、実質的には審査に相当する事務を行っている。○しかし、現行の民生委員法(以下「法」という。)では、委嘱手続に関する区市町村の役割は、「市町村に設置された民生委員推薦会(法第5条第2項)」の委員を「市町村長が委嘱する(法第8条第2項)」ことが規定されているのみで、現在、多くの区市町村が果たしている上記の役割が、法的には十分位置付けられていない。(2)東京都における手続の現状○東京都社会福祉審議会の民生委員審査分科会(以下「審査分科会」という。)においては現在、区市町村から推薦のあったすべての候補者について、審査を行っている。○しかし、一斉改選期には約1万件に達する候補者について、本来の意味での実質的な審査を行うことは困難であり、東京都民生委員・児童委員選任要綱(以下「選任要綱」という。)の事項別に区市町村が既に確認している内容を整理、報告し、了承を得ることが中心とならざるを得ない。○審査分科会への諮問については、各候補者の個人調書の確認や資料作成が必要なため、区市町村から東京都に推薦が上がってから審査分科会の答申を得て厚生労働大臣への推薦を行うまでに、欠員補充期で約1.5月、一斉改選時には約3.5月を要しており、手続期間の短縮が大きな課題となっている。○一方、東京都は現在、都内の共通ルールとして選任要綱を制定しており、引き続き、都内の民生児童委員が同一の基準で選任されるよう配慮していくことは、広域的地方公共団体として果たすべき役割のひとつである。○また、法第17条により、民生児童委員の指揮監督が都道府県の役割となっている現状では、都道府県として審査の客観性を一定程度担保する配慮も必要である。―3―(3)委嘱手続を効率化する方策○委嘱手続を効率化するためには、広域行政を担う都道府県と、地域福祉の推進役である区市町村の役割が、明確に区分されることが必要である。○民生児童委員の委嘱にかかる区市町村の役割は、地域の中から候補者を選出し、その適否を判断して推薦するまでの一連の手続を行うことである。○このため、法第5条第2項の改正によりこの役割を明確にするとともに、推薦会が決定した候補者を区市町村長が都知事に推薦するなど、区市町村が行政として、民生児童委員の委嘱手続に関与する仕組みとすることが重要である。○その上で、候補者の適否を確認し、判断することを推薦会の役割として明確にするとともに、都道府県の審査分科会の審査対象を特に慎重な判断を要する者(以下、「審査対象者」という。)に限定することで、事務手続の重複を避け、迅速かつ機動的な委嘱手続を実現することが可能となる。○一方、都道府県の役割は、広域行政の立場で候補者の選任要件や候補者の適否を判断する際の考え方等を示すとともに、制度運用の客観性を担保することと考えられる。○このように考えると、区市町村長が推薦を決定した候補者のうち審査対象者について推薦の可否を審査することや、職権解嘱の具申に関して同意を行うことは、引き続き審査分科会の役割として保持する必要がある。一方、審査対象者以外の候補者(以下「推薦候補者」という。)については、都道府県知事はこれを尊重し、承認することが妥当な手続と考えられる。(別紙1・2参照)○これらの手続きは、法改正によって明らかにされるべきものであるが、仮に法改正が難しい場合であっても、上記の役割分担を可能とする制度運用の考え方を、国として明らかにしていただきたい。○なお、「審査対象者」については、選任要綱で定める要件を外形的には満たしていないが、区市町村として推薦したい特段の事情がある場合などが考えられる。具体的には今後検討し、必要に応じて国に対しても情報提供していきたいと考えている。○また、「審査対象者」となるものの判断は、都が審査分科会の意見を踏まえて考え方を提示し、これに基づいて区市町村が審査対象者を決定することを想定している。2民生児童委員の人材確保(1)現状の課題○民生児童委員の人材確保については、平成19年度の一斉改選において多くの地―4―域で欠員が出るなど、従来に比べて困難な状況が生じている。このことについて、民生児童委員は忙しいという印象が強いことや、職務内容が分かりにくいことが原因のひとつであるという意見は多い。○また、これまで候補者の選出を実質的に担ってきた町会・自治会等について、地域住民の価値観の多様化等により加入率が低下している地域もあるなど、従来の手法だけでは適切な候補者を見つけにくい傾向が生じ、これが民生児童委員の充足率を低下させる要因ともなっている。○一部の区市町村では、民生児童委員協議会(以下「民児協」という。)や町会・自治会の範囲などの地域福祉活動の圏域ごとに民生委員推薦準備会を設置して、合議により候補者の推薦を行っており、民生児童委員の人材確保について地域の理解が得られるなど、一定の成果を上げているところもある。○一方、区市町村によっては、推薦会の委員が直接候補者を探しているために、特に一斉改選期には、これらの方々に過剰な負担がかかることや、地域の事情に通じていない面があり、候補者を探しきれないことなど、問題が生じているところもある。(2)適任者選出の仕組み○地域の状況は日々変化しており、今後は民生児童委員の人材確保が困難な地域が更に増加することも懸念される。○このような中で今後も民生児童委員の適切な候補者を確保していくためには、推薦会に至る前段階として、民生児童委員活動に関係する様々な立場の住民等が、地域福祉活動の圏域ごとに自ら候補者を選出できる仕組みがあることが必要である。○民生児童委員候補者の選出については、平成20年3月に公表された「これからの地域福祉のあり方に関する研究会」の報告においても、町会・自治会の推薦だけでなく、幅広い分野からの人材登用の必要性が言及されている。こうした取組を進める際に必要な事項については、国においても検討し、制度上の位置付けを整理するとともに、財源への配慮もお願いしたい。○その際、多くの区市町村では、これまでも地域の実情に応じて候補者の選出を行っているので、その取組を尊重するとともに、特に人材の確保が難しくなっている地域等がそれぞれの地域に見合った推薦の仕組みを構築できるよう、以下に例示する事項等を指標として示すことが望まれる。①従来から候補者の選出を担ってきた町会・自治会、PTA、地域のボランティア団体等、地域の多様な人材からの候補者の選任がしやすい仕組みである。②各区域で組織されている民児協が、候補者の選出に関与できる配慮がある。―5―③地域住民に対してその選任手続を適切に説明でき、民生児童委員活動の理解促進にも資するような選任手続である。○さらに、推薦会の人数・構成についても、区市町村の規模や推薦の仕組みに配慮し、区市町村長が必要に応じて適切に委員を選任できるよう、法第8条第2項の改正をお願いしたい。(3)委嘱決定の内示について○民生児童委員の候補者に対する内示は、制度上の位置付けがなく、厚生労働省による委嘱決定は委嘱日直前となってしまう。この結果、委嘱直前まで正式な通知がなされないことで、民生児童委員候補者の翻意や熱意の低下、無職だった方が就労してしまうなど、状況が大きく変化してしまう場合がある。○また、前任の民生児童委員からの引継、委嘱状伝達や新任研修の準備についても、区市町村が事前に手続を進めることの根拠が明確でなく、事務の支障の一つとなっている。○法第5条第1項及び第7条により、候補者の民生委員としての適否については、都道府県知事が最終的に判断するものと解されることから、都道府県知事が必要な時期に委嘱決定の内示を行うことができるよう、国として運用を整理されたい。(別紙1参照)3その他の事項について(1)個人情報の取扱いについて○民生児童委員の活動は、個人情報とは不可分の関係にあるが、個人情報保護法や各自治体が制定している個人情報保護条例との適用関係について具体的な取扱いが統一されていない。このため、民生児童委員が区市町村や地域住民から活動に必要な個人情報を得にくい場合があり、活動に支障が生じている。○このことは、個人情報保護法に関連して、民生児童委員や民児協を対象としたガイドラインが示されていないことや、民生児童委員が作成し又は保有する福祉票(ケース記録票)等の書類について、個人情報保護制度における位置付けが明確でないことも影響しているものと思われる。○このため、民生児童委員が取扱う個人情報については、国が早急にガイドライン等を策定して全国的な方向性を示していただきたい。―6―(2)いわゆる証明事務について○民生児童委員への依頼事項等に関して、各省庁等から民生児童委員への協力依頼が個別に行われることで、結果として民生児童委員の負担が過重になることは避けるべきであり、国の段階で厚生労働省内部や各省庁間等の調整が図られることが重要である。○特にいわゆる証明事務については、民生児童委員が個人として「証明」を行うことの困難性から、東京都では、従来から調査書または意見書として取扱うよう基準を設けて指導しているところであり、全国民生委員児童委員連合会においても同様の考え方が示されている。○しかし、特に法令等で「民生委員の証明等」と記載があるものについては、自治体等のこうした指導に関わらず、相手先の団体等では「証明」に準ずるものとして取扱われている可能性を否定できない。○また、実際に民生児童委員が証明等(以下「調査書・意見書」という。)を依頼されている状況を見ると、法令において具体的な協力依頼があるもの以外に、慣例として行われているものなど、その内容は多岐にわたり、中には個人の所得や財産、過去の家族関係など、通常の民生児童委員活動の中では確認が困難