中枢神経画像診断学担当:三木幸雄(画像診断学・核医学)目標:1.脳MRIの代表的な画像の特徴・コントラストを知る。2.中枢神経疾患におけるCT・MRIの利点・欠点を知る。3.中枢神経疾患におけるCT・MRIの基本読影法を学ぶ。4.中枢神経系の画像解剖を学ぶ。5.救急疾患(特に脳卒中)のCT診断ができるようになる。(どこの診療科に行っても重要だが、読影法を知らなければ意外と見落とす!)6.正常の脳発達・加齢性変化の像を知る。7.代表的中枢神経系疾患の典型的なMRI・CT像を供覧・理解する。講義内容:1.脳MRIの代表的な画像のコントラストMRIのコントラスト(静止物)a.T1強調画像で高信号を呈するもの•脂肪•亜急性期血腫(メトヘモグロビン)•脳白質(灰白質と比較して)(乳児では髄鞘化が進んでいないので、白質・灰白質のコントラストは逆)•蛋白が多く溶けた水•皮質壊死領域が高信号を呈することがある•著明な石灰化巣が高信号を呈することがある•正常下垂体後葉•新生児・妊婦(妊娠後期)の下垂体前葉•マンガンの沈着部位(特に肝機能障害に伴って、淡蒼球が高信号を呈することがある)•Gd(ガドリニウム)による造影領域(中枢神経においては血液脳関門の破綻・欠損部位が造影されるのであって、造影効果は必ずしもvascularityを反映するのではない)•常磁性体:上述のメトヘモグロビン・マンガン・ガドリニウムも常磁性体である。常磁性体には、他にメラニンなどがある(メラノーマは出血を伴わなくてもT1強調像にて高信号を呈しうる)。b.T1強調画像で低信号を呈するもの•水(脳脊髄液)•脳灰白質(白質と比較して)•多くの病変(梗塞・腫瘍など水分含有量の増加を反映)•超急性期・急性期血腫(メトヘモグロビン生成前)•骨皮質・石灰化・空気など、信号を発生するものを含まないものc.T2強調画像で高信号を呈するもの•水(脳脊髄液)•多くの病変(腫瘍・梗塞・浮腫・脱髄など水分含有量の増加を反映)•脳灰白質(白質と比較して)(乳児では白質・灰白質のコントラストは逆)•亜急性期血腫(赤血球が壊れた後)•超急性期血腫(オキシヘモグロビンがデオキシヘモグロビンに変わる前)d.T2強調画像で低信号を呈するもの•急性期血腫(赤血球が壊れる前で、内部にデオキシヘモグロビンかメトヘモグロビンを含む状態)•陳旧性出血巣(ヘモジデリン)•鉄(フェリチン)の多い部位(特に淡蒼球・中脳赤核・黒質、小脳歯状核)•脳白質(灰白質と比較して)•骨皮質・密な石灰化・空気など信号を発生するものを含まないもの•蛋白が非常に多く溶けた水•線維化、密な組織など水の少ない組織•不均一な分布を呈する常磁性体(上記急性期血腫・陳旧性出血・鉄の沈着部位・メラニンなど)MRIのコントラスト(特殊例)a.flow-void•ある程度早い血流(特に動脈)は低信号になる(T2強調画像で確認しやすい)•脳脊髄液でも拍動流の速い部位は信号が低下(中脳水道内やモンロー孔付近)b.flow-relatedenhancement•通常の撮像法(特にT1強調像で出やすい)で、ゆっくりした血流(静脈)が高信号になることがある•特殊な撮像法では動脈の血流も高信号にできる(例えばMRangiographyの元画像)•脳脊髄液の拍動流でも起こりうるc.拡散強調画像•超急性期から亜急性期(発症後2週以内)の脳梗塞は、細胞性浮腫のため高信号を呈する•梗塞以外の病変も、細胞障害が強いと、細胞性浮腫のため高信号になることがある。d.FLAIR(fluid-attenuatedinversion-recovery)像•簡単に言うと、脳脊髄液が黒くなるように条件を工夫して撮ったT2強調画像(T1強調の要素もある)•脳室周囲や皮質近傍といった、脳脊髄液に近い病変の見落としを減らすために撮像することが多い。•CTで検出できない様な少量の亜急性期クモ膜下出血を描出できることがある。•急性期脳梗塞において、閉塞血管が高信号として捉えられることがある。•脳脊髄液の拍動や磁性体によるアーチファクトが強く、後頭蓋窩病変の検出率がやや劣る点が欠点。付.CTの濃度•骨・石灰化・出血は脳実質より高濃度(ただし、くも膜下出血や硬膜下血腫は薄まると脳と等濃度あるいは脳より低濃度になることがある。脳実質内出血も、著明な貧血があると低吸収域になりうる。)•灰白質は白質よりわずかに高濃度(この軽微なコントラストの低下や消失が診断の決め手になることがある)•水(脳脊髄液)は脳より低濃度(脳脊髄液の濃度の上昇箇所があればクモ膜下出血や感染などを疑う)•脂肪は水より低濃度•空気は著明な低濃度(空気と脂肪の区別が必要な場合は広いウィンドウでの観察が便利)•出血や石灰化を含まない病変の多くは脳より低濃度•悪性リンパ腫・胚芽腫・髄芽腫・原始神経外胚葉性腫瘍(PNET)・髄膜腫・中枢性細胞腫など、細胞密度・核細胞質比の高い腫瘍の充実性部分は、出血・出血がなくても正常脳実質と比べ高濃度を呈することが多く、鑑別のポイントとなる。前記の腫瘍より頻度は低いが、膠芽腫・上衣腫・転移性腫瘍などの腫瘍も、その全体あるいは一部が高濃度を呈することがある。2.MRI/CTの利点・欠点a.CTの利点•骨や石灰化の描出に優れる•利便性が高く検査時間も短いため、救急疾患や術後合併症のチェック、シャント術後の評価などに適する。•急性期くも膜下出血の描出がMRIより優れる•体内の金属・医療機器に対する禁忌がほとんどない(一部のペースメーカーなど例外はある)•脳腫瘍の細胞密度が推定できる。b.CTの欠点•軟部組織間コントラスト分解能がMRIより低いため、病変検出能が劣る。•断層面が不自由(最近の多列検出器CT[MDCT]を用いて薄いスライスを撮り、再構成すると、任意の断面の画像を作成することが可能となってきている)•放射線被曝がある。•小脳・脳幹部・側頭葉下部・前頭葉下部は、骨によるアーチファクトにより、画質が劣化する(最近のMDCTではこの画質の劣化はほとんど無くなってきている)•造影剤の副作用が比較的多い。c.MRIの利点•軟部組織コントラスト分解能が優れているため、病変検出能が高い。•亜急性期・慢性期出血の検出能が高い。•断層面を自由に設定できる•放射線被曝がない。•骨によるアーチファクトがほとんどない。•流速度・拡散係数・磁化移動比・(温度)・(弾性係数)など、さまざまな物理量を定量化できる。•造影CTより造影MRIの方が、血液脳関門の破綻部位の検出に鋭敏である。•造影剤の副作用が比較的少ない。d.MRIの欠点•MRIは、強い磁場と強い電波を使って画像を作る検査である。強い磁場は磁性体(鉄・ニッケルなど)を強い力で引きつける。また、医療機器を破壊することがある。強い電波は、ある種・形状の金属の温度上昇を来したり、医療機器に障害を来すことがある。従って、以下の点に留意する必要がある。•体内磁性体(MRI普及以前の動脈瘤クリップ)・ペースメーカー・人工内耳など禁忌がある;救急患者にMRIを施行する際でも、磁性体クリップなどの有無が確実にわからない場合は、死亡事故につながる可能性があるので、MRIを施行してはいけない。•MR装置からは常に(24時間、365日)強磁場が発生しているので非検査時でも磁性体を不用意に検査室に持ち込んではいけないことも、医療事故防止の観点から、知っておくべきである•利便性に劣る(輸液ポンプ・人工呼吸器など、磁性体を含む装置を外さないといけない)•非磁性体の金属(アルミニウム・銅・チタンなど)に対しては、磁場による牽引力は発生しないが、形状によっては(例えばループ状になっていると)、電波による温度上昇の為、組織損傷を来しうる。従って、電極などが体内に埋め込まれている患者も要注意である。•骨・石灰化の描出に劣る。•体動による画質劣化が強い•検査時間がかかる•閉所恐怖症の患者はできないことが多い。•音がうるさい(この音は磁場の傾きを変化させるときの音です)3.CT・MRIの基本読影法-何に注意して、どういう順番で読影すれば良いか、見落としがないように、自分なりに読影の順番を決めておくと便利a.CTの基本読影法(一例)Centraltoperipheralapproach(まず正中構造物から、そして周りの構造物に注意を向けていく)脳室の偏位は?拡大は?脳槽系の形は?濃度は?脳実質外に液貯溜は?出血は?脳実質の濃度は?白質内に異常濃度はないか?灰白質・白質のコントラストはどうか?腫瘤性病変・出血の有無は?濃度は?石灰化は?頭蓋骨・皮下にも注意必要に応じて骨条件も撮像するb.MRIの基本読影法(一例)Centraltoperipheralapproach(矢状断T1強調画像で正中構造物をチェック)脳梁・下垂体・視交叉・松果体・中脳水道・第四脳室・小脳虫部・斜台・上位頚髄・帯状回の位置・信号脳実質外液貯溜・出血は?T2強調画像脳実質内に異常信号は?脳室系の形はOKか?血管のflow-voidは?T1強調画像亜急性期出血は?脂肪は?造影後T1強調画像造影される病変はあるか?硬膜・脳表に異常濃染像はないか?下垂体は均一に造影されているか?4.画像を用いた神経解剖の復習-ほとんどの医師にとって、脳の実物を見るよりもその画像を見る機会の方がはるかに多い。神経解剖学で既習した頭蓋内正常構造物が画像ではどのように見えるかを、復習も兼ねて確認しておくことは重要。•脳の内部構造•脳神経の描出•血管の描出•下垂体・頭蓋底の構造•よくある間違いは?5.救急疾患(特に脳血管障害のCT)-脳の救急疾患は現在でもCTが第一選択の画像診断法である。脳血管疾患は高頻度の疾患であり、当直医として救急疾患の脳CTを診断する機会はどの科の医師になってもあり得るので、脳の救急疾患のCT像を、少なくともある程度は読影できるようになっておく必要がある。(読影法を知らなければ、病変を簡単に見落とし得る)a.脳梗塞•超急性期脳梗塞(発症後数時間以内):CTでは正常のことが多いが、塞栓性梗塞では、灰白質・白質のコントラストが低下・消失したり、閉塞した主幹動脈(特に中大脳動脈)が血栓のために高濃度として描出(hyperdense-MCAsign)されることがある(earlysigns)•急性期脳梗塞:梗塞部位がしだいに低吸収域として描出されてくるb.脳内出血•通常は発症の比較的直後から高吸収域を呈する(clotが高吸収域を呈する)。したがって、突然発症の神経脱落症状があり、発症後数時間以内に撮像したCT像が正常であれば、脳梗塞である可能性が高い。(強い貧血患者では血液が薄いので、まれに出血が高吸収域として描出されないことがある。)c.クモ膜下出血•全ての脳槽・脳室の濃度を注意深くチェック(シルビウス裂や鞍上槽・脚間槽(ペンタゴン)は、動脈瘤の好発部位なので特に注意して観察する必要がある)•通常は高吸収域を呈するが、出血量が少量であったり、出血が起こってから数日経っていると、血液が脳脊髄液で薄まり脳実質と等吸収域を呈することがある。その場合は脳槽がはっきり見えないということ自体がクモ膜下出血を示唆する所見となる。c.外傷•骨折:骨条件CTで、側頭骨も含め、注意深く観察•硬膜外血腫:一般に限局性凸レンズ形。縫合線を越えない。•硬膜下血腫:三日月型。縫合線をまたぐ。高吸収域とは限らない。(脳とほぼ同じ濃度のことや、低吸収域であることも多い)•脳挫傷:特に皮質に異常濃度がないかどうか。受傷部位の反対側も要チェック(contrecoupinjury)•くも膜下出血:脳挫傷や血腫の近傍に存在することが多い•CT所見が軽微であるのに意識障害が遷延するときは、MRIで瀰慢性軸索損傷(diffuseaxonalinjury)の有無をチェックする。6.発達・加齢による変化a.新生児・小児の脳発達•新生児の脳の灰白質・白質のコントラストは成人と逆。•髄鞘化により次第