14-11大腸腫瘍性病変における腺口構造の診断学的意義の解明に関する研究主任研究者昭和大学横浜市北部病院工藤進英研究成果の要旨今年度の研究計画としては、(計画1)治療方針決定のために、VI型pitpatternの中でsm深部浸潤癌を選別する指標を検討する。(計画2)潰瘍性大腸炎関連大腸腫瘍における腺口構造の分析。(計画3)新しい診断手法と従来のpitpattern診断の比較検討を行う。(1)今年度の班会議で、smmassive癌の可能性があり慎重に扱うべきVI型pitpatternを、「VI高度不整」と呼称することになり、以下のごとく定義された。VI高度不整の定義:既存のpitpatternが破壊、荒廃したもの。具体的には・内腔狭小・辺縁不整・輪郭不明瞭・stromalareaの染色性の低下・消失・scratchsign。(2)UCにおける拡大内視鏡所見を、NeoplasitcPitPatternofUlcerativeColitis(NPUC)とNon-NeoplasitcPitPatternofUlcerativeColitis(nonNPUC)に分けて考えることを提案した。NPUCは、IV、IIIL、VI、VN型で、不整・大小不同・pitの極性の消失・領域性・疎な腺管密度・大型円形を含む腺口開大・pitの癒合などが特徴である。一方、nonNPUCとしては、大小そろった大きさ・均一・pitの極性の保持といった点が上げられる。(3)NBI観察による大腸病変に対するpitpattern診断能について検討した。病変の色調は毛細血管密度を反映していると考えられた。また、病変の毛細血管性状(太さ/走行)と組織型/深達度は有意に関連しており、大腸腫瘍の異型度や深達度診断に有用である可能性が示唆された。研究者名および所属施設研究者名所属施設および職名工藤進英昭和大学横浜市北部病院教授田中信治広島大学医学部・歯学部附属病院助教授佐野寧国立がんセンター東病院医長西倉健新潟大学医学部講師田村智高知大学医学部助教授鶴田修久留米大学第2内科助教授分担研究課題大腸腫瘍性病変における腺口構造の解明と診断治療への応用腺口構造解析による腫瘍の病態解明拡大内視鏡を用いた腫瘍・非腫瘍性病変の鑑別と非腫瘍性病変からの腫瘍化の予測大腸腫瘍の腺口構造に関する病理学的解析大腸腫瘍性病変の腺口形態と腺管の三次元構造に関する研究V型pit細分類の意義とその組織構築-1-14-11大腸腫瘍性病変における腺口構造の診断学的意義の解明に関する研究研究報告1研究目的大腸粘膜表面の腺管開口部の形状や配列を腺口構造(ピットパターン)というが、この研究の目的は、各種大腸病変における腺口構造の特徴的な変化を実証的に解明するとともに、その診断学的な意義を明らかにし、国際的にも情報を発信することである。従来の分類はI、II、IIIL、IIIs、IV、Vの6型からなり、V型はVN型とVI型に亜分類されるが、両者の境界に関しては施設間で定義が若干食い違っていた。昨年度の班会議で下記のような合意が得られた。1.不整腺管構造をVI型とする、2.明らかな無構造領域を有するものをVN型とする、3.sm癌の指標としての高度不整腺管群・scratchsign・invasivepatternは付記してもよい。この結果、VN型の範囲が厳密となり、sm深部浸潤癌がほぼ100%を占めるようになった。一方VI型には高度異型腺腫、m癌、sm癌があり、sm深部浸潤癌も少なからず含まれるようになった。そのため、今後は治療方針決定のために、VI型pitpatternの中でsm深部浸潤癌を選別する指標の検討が必要となった。今年度の研究計画としては、(計画1)治療方針決定のために、VI型pitpatternの中でsm深部浸潤癌を選別する指標を検討する。高度不整腺管群・scratchsign・invasivepatternなど従来の所見に加えて、新たな指標を提案し、定義を明らかにする。(計画2)潰瘍性大腸炎関連大腸腫瘍における腺口構造の分析潰瘍性大腸炎関連大腸癌は早期発見が困難で、しばしば予後不良である。Pitpattern解析が潰瘍性大腸炎関連dysplasiaやcarcinomaの診断に有用であるかを検討する目的で、分担研究者や協力者施設より典型例を集積する。(計画3)新しい診断手法と従来のpitpattern診断の比較検討を行う。2研究成果本年度の成果は、癌の表面構造の主体をなすV型pitpatternを多方面から分析したこと、潰瘍性大腸炎関連大腸腫瘍の診断における腺口構造観察の有用性を検討したことである。1)腺口構造に関する基礎的検討田村らは、大腸腫瘍性病変の腺口形態に対応する腺管の立体構築像の解明と、大腸癌の発育進展に関して考察を行った。内視鏡的ないし外科的に切除された標本を、ホルマリン固定後に実体顕微鏡観察を行い、割を入れた後、目的とする腺口構造の部分に対して、塩酸消化法にて腺管の単離を行った。各腺口形態に対応する単離腺管の三次元構造は以下の通りである。I型pitpatternに対応する正常腺管は、表面平滑な試験管状であり分枝や結節は認めなかった。II型pitpatternに対応する過形成腺管は、腺底部から裂開するような分枝状であるが表面平滑で結節は認めなかった。IIIL型pitpatternに対応する腫瘍腺管は、小結節や切れ込みを伴う逆三角形ないし舌状であり、表面はI型やII型の対応腺管に比し粗造であった。IIIs型pitpatternに対応する腫瘍腺管は、表面はI型やII型の対応腺管に比しやや粗であるが分枝や結節のない単一な腺管で、腺底部(粘膜筋板に接する位置)で先細りし屈曲していた。IV型pitpatternに対応する腫瘍腺管は、分枝や結節を伴う表面粗造な腺管であった。V型pitpatternに対応する腺管は、統一性を欠く様々な構造を呈する、“奇怪な”形態の腺管の集合からなっていた。隆起型から単離した腺管は、結節が目立つことから、増殖帯で形成された結節が表層へ移動し、新たな腺管を形成する事の繰り返しで、その形態が出来上ると考えられる。非顆粒型の側方発育型腫瘍から単離した腺管は、二層性で表層は腫瘍、腺底部は非腫瘍部から成り立っており、置換性の発育をしていくことで側方に発育する腫瘍の形態が出来上ると考えられた。陥凹型の単離腺管は、結節や二層性ではなく、正常腺管に似た単一腺管と、腺底部で裂開した腺管から成り立っていた事から、陥凹型腫瘍は腺管の裂開により発育していくことで、陥凹性病変が形成されると考えられた。pitpatternに対応した単離腺管の三次元構造は、それぞれ特徴的な形態を呈していた。内視鏡的にpitpattern診断が出来れば、その病変を構成している腺管の三次元構造と病理組織像が推測可能であり、その組織発生まで推測可能であった。2)Ⅴ型pitpatternの検討VI型pitpatternの中でsm深部浸潤癌を選別する指標に関する検討を行った。工藤らは、ⅤI型pitpatternの不整度を反映する病理組織像の究明を目的として、“腺管構造の乱れ度合い”を用いた解析を行った。ⅤI症例のsm浸潤部では病理組織学的に、腫瘍の粘膜内における既存の腺管構造がよく保たれた状態(grade0)から、不規則・不整で異型の高度な構造が腺管深部に限局して出現する状態(grade1)、高度に異型な構造が腺管表層部に近接するが、最表層部ではなお垂直な管状配列がわずかに残存する状態(grade2)、高度異型な構造が腺管表層に達し、完全に置換される状態(grade3)、表層にdesmoplasticreaction(DR)を呈する肉芽組織が露出する状態(grade4)へと移行していくように観察された。ⅤI型sm浸潤癌63病変を対象に、この腺管構造の乱れ度合い(grade0~4)を検-2-14-11大腸腫瘍性病変における腺口構造の診断学的意義の解明に関する研究索し、sm浸潤度別に平均値を求めて比較した。sm1c以深をsmmassiveと定義した場合、陥凹型の67%,平坦型の33%,隆起型の50%がmassiveな浸潤癌に相当した。腺管構造の乱れ度合い(grade0~4)の平均値を肉眼型別にsmslightな浸潤癌とmassiveな浸潤癌とで比較すると、陥凹型ではsmslight:smmassive=1.5:3.0、平坦型では1.6:3.0、隆起型では2.0:3.3であった。従来の知見では、癌がsmにmassiveな浸潤を来した場合、その表層部に現れる組織学的な変化として、DRを呈する肉芽組織の露出という所見が専ら強調されてきた。しかし今回検索した結果からは、肉眼型を問わず、腺管構造の乱れ度合いがgrade3、すなわち肉芽組織が表層に露出しなくても、高度に異型な構造により腺管が表層まで完全に置換された状態が既にsmmassiveな浸潤形態に対応していた。この所見に対応するpitpatternの解析は,smmassiveな浸潤癌を推測する一助になり得るものと考えられた。次に工藤らは、smmassive癌を示唆するVI型pitpatternの所見に関して検討を行った。VI型pitpatternを呈し、pitpatternの評価が充分可能であった、47病変を検討の対象とした。pitpatternの評価は0.05%クリスタルバイオレット染色下の拡大内視鏡写真で、最深部に対応すると思われる部位で行った。1.辺縁不整(pitの形態が非対称であるばかりでなく、辺縁がギザギザしていること)、2.内腔狭小、3.異常分岐(1個のpitから3箇所以上で分岐、あるいは1箇所の分岐点から3本以上の分枝が分岐)、4.密在、の所見に関して検討を行った。smslight癌とsmmassive癌は、それぞれ、21病変、26病変であった。上記の所見の陽性率は、「異常分岐」に関しては、smmassive癌での感度は高いものの、smslight癌での出現頻度も高く、特異度や陽性的中率が低いことが判明した。単変量解析によるsmmassive癌に対するodds比の検討では、「辺縁不整」と「内腔狭小」が、他の2項目に比して有意に高いという結果になった。そこで「辺縁不整」と「内腔狭小」の2項目のうち1項目以上陽性であればVI高度不整と診断することにした。VN型pitpatternおよびVI高度不整をsmmassive癌の指標と仮定した場合、陽性的中率93.8%、感度93.8%、特異度80.6%、overallaccuracy90.6%であった。VN型pitpatternおよびVI高度不整をsmmassiveの指標と仮定した場合、VN型pitpatternのみをsmmassive癌の指標と仮定した場合に比較して、陽性的中率と特異度はやや低下したが、感度とoverallaccuracyは明らかに向上した。これを形態別に検討すると、隆起型では、感度97.0%、特異度66.7%、overallaccuracy87.5%、平坦型では、感度83.9%、特異度91.7%、overallaccuracy86.0%、陥凹型では、感度、特異度、overallaccuracyすべて100%という結果であった。鶴田らは昨年度の分担研究報告で、VI型pitpatternの細分類(輪郭明瞭VI型と輪郭不明瞭VI型に2分)が大腸癌の深達度診断において有用であるという結果を報告した。今回はこの細分類を用いた拡大内視鏡検査と通常内視鏡および超音波内視鏡検査の3種検査による臨床的に効率の良い大腸癌深達度診断のアルゴリズムの確立を目的とした検討を行った。3種の検査を施行し病理組織学的にも十分な評価が得られた、大腸上皮性腫瘍85病変を対象とした。深達度は腺腫、m癌、sm癌浸潤距離1000μm未満を一括したm-sm1000μm未満とsm癌浸潤距離1000μm以上のsm1000μm以上とに2分した。通常内視鏡による