「木の文化を大切にするまち・京都」市民会議「平成の京町家」検討プロジェクトチーム検討報告書平成22年3月「木の文化を大切にするまち・京都」市民会議「平成の京町家」検討プロジェクトチーム目次1.「平成の京町家」開発の背景と目的(1)開発の背景·································································································1(2)京町家の現代的価値··················································································4(3)開発の目的·································································································72.「平成の京町家」開発の視点(1)「平成の京町家」の3つの視点································································8(2)伝統的な京町家の知恵と課題·································································103.「平成の京町家」の開発(1)「平成の京町家」の空間コンセプト·······················································16(2)「平成の京町家」によって実現するライフスタイル·····························18(3)開発モデル·······························································································19(4)「平成の京町家」認定基準(案)··························································264.「平成の京町家」の地球環境への貢献(1)京都市地域産材活用による森林整備・林業再生····································44(2)地球温暖化ガス削減効果の検証······························································465.「平成の京町家」の供給促進方策(1)「平成の京町家」コンソーシアムの設立···············································55(2)当面の取組·······························································································60(3)「森と緑」及び「京都環境配慮型建築(CASBEE京都)」との連携626.今後の課題(1)モデュール·······························································································63(2)京都市地域産材の流通促進·····································································64(3)伝統構法の普及促進················································································66(4)地域特性に応じた住宅性能の評価··························································71参考資料□「CASBEE戸建」によるスコア算出の概要説明について11.「平成の京町家」開発の背景と目的(1)開発の背景ア地球温暖化問題に対する京都のアプローチ「21世紀は環境の世紀」と言われて,地球温暖化への対応は,世界の国と地域が一致して取り組むことが求められており,この実現に向けては省エネルギーに貢献する技術的なアプローチが全世界的に大きなテーマとなる中,地球温暖化問題はもはや対症療法的な取組によって解決できる問題ではなく,全世界的な対応を前提として,全人類のひとりひとりの取組が必要となっている。このとき,低炭素に貢献する技術によるアプローチのみならず,社会システムや人間の価値観を変えていくような大胆なアプローチが求められている。平成9年に地球温暖化問題解決の枠組みを示した京都議定書が誕生した地である京都市は,地球温暖化問題の解決に向けて先導的な役割を担うことが求められている。特に,1200年の長い歴史の中で,京都を取り囲む三方の山々や鴨川などの河川に代表される自然と共生することにより,生活,産業,文化・芸術を昇華させてきた京都の価値観や暮らしの知恵,環境技術を再評価し,創造的に再生していくことは,歴史都市・京都に課せられた課題でもある。こうした中,京都市は平成21年1月に国の「環境モデル都市」に選定され,地球温暖化対策をさらに強力に推し進めていくことを宣言し,「カーボン・ゼロ都市」への挑戦の端緒に付いたところである。この「環境モデル都市」としての取組を展開させていくための3つの主要なシンボルプロジェクトの一つとして「木の文化を大切にするまち・京都」をキーワードに,地球温暖化問題の解決に資する低炭素社会の概念を明らかにすると共に,これを実現していくためのプログラムを検討することとなった。具体的には,中長期的な展望のもとに,三方を森に囲まれた京都が歴史的に培ってきた「木の文化」を踏まえた「低炭素型景観の創造」を目指し,建築物だけでなく都市機能,暮らしかた,森林涵養など幅広い観点から,「木の文化を大切にするまち・京都」のあり方及びそれを推進する取組について明らかにすることとした。この「木の文化を大切にするまち・京都」を実現するためのアプローチとしては,三山をはじめとする豊富な森林資源に恵まれた立地環境と,日本を代表する歴史の蓄積によって形作られてきた木造文化を基軸とするまちの姿とを有機的につなげていくことを念頭に,地球環境にやさしい都市活動のサイクルを「木の文化」として発展させていく仕組みづくりを目指すこととした。2イ京都のまちの現状このとき京都のまちに目を向けると,歴史都市という特性を保持しながらも,現代都市の例にもれず,利便性や消費優先の都市化が進み,都心部においては伝統的家屋(京町家)からビルへの変容,また核家族化による全市的な世帯数の増加などにより,家庭部門及び業務部門において二酸化炭素(CO2)排出量が増加するなど,低炭素社会を構築するためには大胆な対策が必要とされている状況である。とりわけ,環境にもたらす影響が非常に大きい住宅部門において,京都のまちの景観に配慮した住宅の長寿命化やエネルギー削減などの低炭素対策が喫緊の課題となっている。京都市では,市街化区域で思い切った高さの引き下げを行った他,屋外広告物の規制強化(屋上屋外広告物の廃止),建築物のデザインを京都にふさわしいものへの誘導,眺望景観や借景の保全(世界遺産周辺での高さとデザインの一体的な規制)などを柱とする新景観政策を平成19年9月から実施している。この新景観政策は,魅力ある都市景観を維持するだけでなく,建築物の高さ規制や屋上屋外広告物の廃止により,CO2排出量の抑制に寄与することが期待されており,こういった新景観政策との連携を図りながら,低炭素社会の実現に向けた取組が求められている状況にある。また,住宅政策に関連して,京都市の特性である京町家など大量の木造住宅ストックの保全・再生が政策上の大きなテーマとなっており,既存住宅を長く使い続けるための法制度面での合理性を確保するための検討が進められている。一方,国においても,平成20年6月に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が公布され,長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅の普及に向けた取組が始まっているところである。こうした動向を踏まえて,「木の文化を大切にするまち・京都」にふさわしい京都の住宅の将来像を示すことが望まれている。ウ京都の環境配慮住宅のあり方この報告書では,京都の住宅の将来像を象徴的に示すものとして,「平成の京町家」という概念を掲げ,いわゆる省エネルギー住宅とは異なる京都モデルのあり方や要件を提示しようとしている。環境面での配慮を行った住宅開発は,国内のみならず,全世界でも取り組まれている。例えば,EU欧州連合(EU)は2021年以降に新築する住宅やオフィスビルなどについて原則として,二酸化炭素(CO2)を実質的に排出しない「エコ建築物」とするよう義務付ける規制を導入する方針を掲げている。既にドイツなどで導入されている「エネルギーパフォーマンス証明書」による環境評価手法を採用し,建物のエネルギー性能を測り,年間のエネルギー消費量やエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合などを証明書で示すことが想定されている。ただし,この取組は,あくまで先端の環境配慮技術を取り入れていくことに主眼が置かれており,必然的に太陽光発電や地熱発電の活用,高効率型エネルギー機器・設備の導入,高い断熱性能の確保などが優先され,地域ごとの住まい方や,歴史の中で各地3域が培ってきた住文化,伝統といったものが配慮されにくい仕組みとなる可能性が高い。また,日本国内を見ても,国策として推進している「省エネ住宅」は,家全体を高気密・高断熱化すると同時に省エネルギー機器やソーラーパネルを導入するものが志向されている。このように,一般的な環境配慮住宅は技術志向の面が強く打ち出され,そこでは石油の使用量を抑えながらこれまでと同等以上の温熱環境を実現することのみが強調され,人間も環境の一員であり,環境と共生することにより環境にやさしい生活を実現していくという考え方が軽視されると同時に,地域の特性,歴史に培われた住文化への配慮が後回しにされている。「平成の京町家」は,このような先端の環境配慮技術の導入のみを求めようとするのではない。京都は長い都市生活の歴史の中で,外部環境と対峙するのではなく,外部環境と共生する知恵を住宅の中に取り入れてきた。その典型が京町家である。京町家は優れた環境性能を有しているが,これはエネルギーの消費量といった指標のみで評価できるものではない。そこには住まい手の住みこなし方,外部環境と内部環境との緩やかなつながりなど,多くの知恵がある。そして,長い年月の知恵の積み重ねが文化を育み,京都人の美意識と共に京町家を形成した。こうした知恵を排除することは,京都が培ってきた住文化を否定し,ひいては次の新しい技術を開発する能力を失うことにつながりかねない。もちろん,先端技術を導入することをすべからく拒絶することに意味はない。今求められているのは,歴史的に培われてきた住文化の中から見出される知恵と現代の先端技術とをバランス良く融合させ,新たな価値観を探ることである。換言すれば,「平成の京町家」は,京都が京都であり続けるための「住宅政策(住文化を発展的に継承するもの)」と,現代社会の要請である持続可能な社会づくりに貢献するための「環境政策(CO2削減)」が融合した新しい「景観政策(景観まちづくり)」という性格を持つものである。歴史に培われた京町家の知恵を現代の技術と融合させるというスタンス,これこそが「平成の京町家」のあり方を考えるうえでの基本的なスタンスであり,京都しかできないチャレンジである。4(2)京町家の現代的価値京町家は,「木の文化」を象徴し,京都の町並み景